大学の選び方

コロナ禍で検討された【秋入学】への切り替え。一部の大学・学部では、すでに秋入学に対応!

「秋入学(秋季入学)」とは、文字通り秋に入学することです。2020年、コロナ禍で小学校から大学までが一時期休校となったことをきっかけに、「秋入学」の導入を求める声が上がりました。結果的には、今回の導入は見送られました。一方、一部の大学・学部では対象を絞った上で、すでに秋入学に対応しています。

「秋入学」は、秋に新入学・新学年に進学すること

日本では、学校教育法の規定により、幼稚園、小学校から高校までは入学や新学期を迎えるのは「春」(4月)と一律に決まっています。これを秋に変更しようというのが、いわゆる「秋入学」です。実現した場合、入学時期は9月になることが多いと考えられるため、「9月入学」とも呼ばれています。

コロナ禍で「秋入学」の導入が検討された

2020年は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、3月以降、小学校から大学までの教育機関が一斉に臨時休校する事態となりました。そして、臨時休校の長期化で懸念されたのが「学習の遅れ」です。

休校によって不足した授業時間を確保し、学習の遅れを取り戻すにはどうすればよいのか。検討する中で、教育関係者や各都道府県の知事、保護者などから出てきたのが、2020年度ないし2021年以降は入学や進学の時期を秋にずらすという考えでした。

実際、文部科学省も秋入学を選択肢のひとつとして検討するとしていました。しかし、2020年度、2021年度といった直近での秋入学の導入は見送られることとなりました。

実は35年前から議論されている「秋入学」の導入

コロナ禍で、唐突に秋入学の議論が始まったように感じた人も多いかもしれません。しかし、国が秋入学の検討を始めたのは、なんと今から35年前も前のこと。1987年の教育審議会の場で、すでに秋入学について話し合われていて、その後もたびたび議論が重ねられてきました。

国が秋入学の導入を検討するのは、主に次の理由からです。

  • 夏休みを学年の終わりにすることで効率的な学習ができる
  • 9月入学が中心の欧米など国際社会との整合性を取りやすい
  • (9月入学制の国からの)帰国子女の受け入れの円滑化
  • 学年の切り替え時期が夏休みになることで、長期の休みをより活用できる

「秋入学」の導入には解決すべき、さまざまな課題がある

30年以上も議論が重ねられているにもかかわらず、秋入学へと踏み切れないのはなぜでしょうか。文部科学省の資料によると、秋入学に移行するには解決すべきさまざまな課題があるためです。課題は教育に関わるものだけでなく、社会全体に関わるものもあります。

例えば、秋入学に切り替える年に小学1年生となる入学予定者が、例年より約40万人も増えると見込まれます。通常は1年間に生まれた子の数が入学予定者になりますが、切り替えの年だけは入学時期が半年遅れるぶん、1年半の間に生まれた子が対象になるからです。

そのため、学校の現場では教室や設備、教員が不足する可能性があります。また、人数が増えた学年については、高校を卒業するまで毎年影響が出るため、その都度、対応する必要があります。また、春入学を前提に実施時期を決めている入学試験や各種試験、文化・スポーツ行事なども見直しが必要になる可能性があります。

さらに、学校だけが秋入学になったとしても、会社などの「社会活動の年度始まり」が以前のとおり4月のままであれば、その「ずれ」も問題になります。一例を挙げると、年度替わりに多い保護者の転勤と児童・生徒の入学・進学・卒業の時期とタイミングが合わなくなることで、転校がスムーズにいかないといった心配もあります。

文部科学省の調査によると、秋入学の導入で改正の検討が必要になる法律は、子ども・子育て支援法、学校教育法、労働基準法ほか、全部で30本以上もあるとのこと。コロナ禍という非常事態でも、急に秋入学に移行するのが難しかった理由の一端といえるでしょう。しかし、長年議論されてきたことであり、いずれは秋入学が導入される可能性は高いとも考えられます。

世界各国の大学の入学時期シーズンは?

ところで、世界各国の入学シーズンはいつでしょうか。改めて確認してみましょう。なお、小学校、中学校、高校、大学で入学時期が異なる国もありますが、基本的には大学の入学時期を記載しています。

主な国の入学時期

入学月 国名
1月 オーストラリア、スリランカ、マレーシア
2月 ブラジル
3月 韓国
4月 インド、ネパール
5月 タイ
6月 ミャンマー
7月 インドネシア
8月 台湾
9月 アメリカ、フランス、イギリス、中国、ロシア、イタリア、ベトナム
10月 ドイツ

※アメリカ、ドイツ、オーストラリアなどは、州によって異なる
※出典 https://www.mext.go.jp/content/20200730-mxt_soseisk01-000009115_10.pdf

「海外は秋入学が一般的」というイメージを持っている人も多いでしょう。実際、アメリカやイギリス、フランス、イタリアなど欧米では9月入学の国が多くなっています。

ただし、全世界を見ると必ずしも秋入学の国ばかりではありません。例えば、日本人の留学生も多いオーストラリアは1月入学、ブラジルは2月入学、またインドやネパールは日本と同じ4月始まりです。

一部の大学・学部では、すでに「秋入学」に対応

冒頭で述べたとおり、高校までは4月1日に始まり3月31日で終わることが法律で決まっています。しかし、大学については2008年に学校教育法が改正され、「(大学の)学年の始期及び終期は学長が定めることとする」となりました。そのため、大学ごとに自由に定めることが可能です。

法律を改正した目的は、まさに秋入学の促進です。そして、この法律改正を機に、一部の大学・学部ではすでに秋入学に対応したカリキュラムを導入しています。現状では、夏前に高校過程が終了する留学生や帰国子女がスムーズに日本の大学に進学するための制度といえますが、大学によっては帰国子女以外の日本人も対象としています。

日本人学生の「秋入学」のメリットは、英語環境に身を置けること

秋入学のカリキュラムの場合、学生のほとんどが留学生や帰国子女のため、一般的には授業はすべて英語で行われます。クラスに多くの留学生がいることで、英語を利用する機会も増えます。日本にいながら英語環境に身を置けることが、「秋入学」の大きなメリットになります。

また、欧米圏への長期留学を検討している場合、留学先の大学は9月始まりが多いため、ちょうど学年が変わるタイミングで留学することが可能です。海外への留学を検討している学生にとってはメリットになります。

大学での「秋入学」のデメリットは、就職活動への影響

では、秋入学によるデメリットはあるでしょうか? あえて挙げるとすると、就職活動への影響です。従来の就職活動は、一般的に4月入学の学生のスケジュールに合わせて進められてきました。また、多くの企業は新卒では4月入社を前提としています。

そのため、卒業論文の作成など学業が忙しい時期に就職活動が重なる、卒業から入社までに時間が空いてしまうといった問題が起こりえます。ただ、それをデメリットととらえるかどうかは人それぞれかもしれません。

「秋入学」に対応している大学・学部の例

秋入学を導入していて、帰国子女以外でも入学試験を受けられる大学・学部の例をいくつか紹介します。日本在住の日本人学生が、秋入学を志望して受験する場合、国際的な教育プログラムである「国際バカロレア」のIBDP資格が必要になる場合もあります。個々の詳細な受験要件と最新情報は、必ず各大学・学部のサイトで確認してください。

なお、ここで紹介している学部はいずれも4月入学も可能で、4月入学の場合は利用できる入試方法が異なる場合があります。

国際教養大学 国際教養学部

日本在住の「9月入学」志望者を対象にした、「ギャップイヤー入試」と「総合選抜型入試」があります。ギャップイヤー入試では、高校卒業から9月の大学入学までの間に、インターンシップやボランティア研修など自ら計画したギャップイヤー活動が義務付けられます。
https://web.aiu.ac.jp/undergraduate/admission/

上智大学 国際教養学部

日本在住の「9月入学」志望者は、書類選考または「公募推薦入試」を利用可能です。書類選考時には、指定された英語外部検定試験のスコア提出や英語によるエッセーの提出などが必要です。
https://www.sophia.ac.jp/jpn/admissions/gakubu_ad/fla/index.html

立命館大学 グローバル教養学部

日本在住の「9月入学」志望者は、「AO英語基準入学試験」を利用できます。ただし、受験には国際バカロレアのIBDP資格や同じく国際資格であるGCEアドバンスなどが必要になります。
http://en.ritsumei.ac.jp/e-ug/apply/howto.html/

「秋入学」を選択するなら目的を明確にする

高校までの教育課程に先駆けて、秋入学が導入されつつある大学ですが、現時点ではまだあくまで「少数派」です。満足のいく大学生活を送るためにも、あえて秋入学を選ぶ目的や理由がどこにあるのか、まずはじっくり検討してみることが重要です。

参考

・文部科学省 秋季入学に関する検討について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shukinyugaku/index.html