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モノづくりを変える【電磁界解析】の研究。EVやロボット設計のシミュレーションとして需要高!

これからの社会では、電気自動車(EV)やドローン、ロボットなど、私たちの暮らしを豊かにするさまざまなモノが増えていきます。電気の力で動くそれらの設計、開発には、電気や磁気の働きについて解析する「電磁界解析」が役立ちます。今回は、これからの設計、開発に重要な役割を持つ「電磁界解析」について解説します。

「電磁界解析」とは?

私たちは、たくさんの「電気で動くモノ」に囲まれて生活しています。それらの設計、開発にはいくつもの技術が使われており、そのひとつが「電磁界解析」です。

電磁界解析は、電磁場による作用を解析する研究で、モノづくりの現場では電気や磁気に関するシミュレーションをする方法として利用されています。

モノづくりの効率をアップするシミュレーションに活用!

かつてのモノづくりは、まず設計図を書き、試作品を作って動かしてみて、改良を加えていくというプロセスを繰り返していました。そうしていくつもの試作機で検証しつつ完成度を上げてから大量生産につなげていました。

しかし、いくつもの試作品を作っていては時間も手間もコストも膨大になります。そこで試作品の代わりに、コンピューター上の仮想的なモデルを使ってシミュレーションするように移っていきました。シミュレーションであれば、実物よりも簡単に、いろいろな試行錯誤ができます。

例えば、「この部分を小さくすると結果がどれくらい違うか」「ここの形状を変えてみると、何が変わるだろうか」という試行錯誤も、コンピューター上であればパラメーターの値を変えるだけで簡単に実行できますが、実物の試作品をその都度作っていたら大変なことになります。

電磁界解析はあくまでも仮想モデルを用いたシミュレーションですので、実物を使った検証よりは精度が落ちます。しかし、試作品よりもはるかに多くのシミュレーションを行えるというメリットは大きいものです。そうして精度を高めてから、試作品の製作に移れば、無駄のない設計、開発が可能になります。

とはいえ、電磁界解析だけですべてのシミュレーションが可能になるわけではありません。モノづくりではさまざまなシミュレーションが行われており、そのうち電気や磁気に関するところに電磁界解析が用いられています。

電気自動車、家電など、モーターの設計、開発分野で活躍

電磁界解析がよく活用される分野にモーターやインバーターの設計、開発があります。モーターは電気エネルギーを運動エネルギーに変えるもの、インバーターは電気を変換するもので、この二つはよく一緒に用いられます。その設計次第でエネルギー効率などが違ってくるため、電磁界解析を使ったシミュレーションによって、コンパクトでも高いパワーを得られる「最適値」を見つけ出そうとしているのです。

例えば、電気で回る駆動用モーターで走る電気自動車(EV)。人や荷物を乗せて走る普通自動車の車体は(車種にもよりますが)約1トン。その重い自動車を走らせるわけですから、モーターには相当なパワーが求められます。

パワーだけではなく、モーターのサイズや形状、軽さ、ノイズなどの検証も欠かせません。また、電磁波は人体への影響も考慮する必要があり、どの程度の電磁波がどの方向へ出るのかという検証も行わなくてはいけません。

そのようなシミュレーションに電磁界解析が使われるようになってきたのです。

<IPM モータの電磁界・電気回路強連成解析>

SDGsの観点からも期待

自動車の例を挙げましたが、電車やリニアモーターカー、エレベーターやエスカレーターなども同様です。

ほかにも電子レンジや冷蔵庫、洗濯機、エアコン、掃除機など、私たちの身の回りにある、数多くの電化製品にモーターが使われています。それらのモーターをエネルギー効率の高いものに置き換えていけば、省エネにつながり、SDGsに貢献できることにもなります。

高まっていく「電磁界解析」の需要

これからは、世界全体でガソリン車から電気自動車に移行するといわれています。そのためにはいろいろなタイプの電気自動車向けに、いくつもの駆動用モーターの開発が必要になります。

さらに、空を飛ぶドローン、ロボット、無線通信やレーダー、ワイヤレス充電システム、MRIなどの医療機器、発電システムなども多く作られていくでしょう。特に無線通信、ワイヤレス充電のように、目に見えない空間を電気や電波が通るような機器では、電磁界解析による伝導率などのシミュレーションが不可欠です。

<高周波電磁界解析ソリューション- FEKO>

「電磁界解析」について学べる学部、学科

電磁界解析は、工学部系、理工学部系の「電気電子工学」「エレクトロニクス」などの学部、学科で学ぶことになります。

電磁界解析の新しい手法を考案する

一口に電磁界解析といっても、有限要素法、モーメント法、有限差分領域法など、さまざまな手法があります。しかし、今ある手法だけですべての設計、開発に対応できるわけではありません。電磁界解析が活用できる分野をさらに広げていくには、今後も新しい手法を生み出す必要があります。

また、すでに存在する手法でも、より効率的に、高い精度で解析できるように改良していく研究もあります。

新しい電磁界解析ツールを開発する

すでに電磁界解析のためのツール(ソフトウエア)はいろいろなソフトウエアベンダー(開発会社)から提供されています。それを活用すれば、電磁界解析を行うことが可能です。

しかし新しい手法を考案した後は、それを活用するためのツールも必要となります。その開発も研究対象となります。まったく新しいツールを作るのではなく、既存のツールに組み込むこともあります。

モノづくりのエンジニアになるためのスキルを磨く

電磁界解析の研究の道に進まないとしても、工学部などの研究で新しい機械を作るときには、電磁界解析ツールを駆使して、設計、開発することもあります。ツールを使えば電磁界解析はできると書きましたが、使いこなすには電磁界に関する専門知識も重要です。その経験を通して得たスキルは、将来エンジニアになったときに役立つでしょう。

『電磁界解析』が応用できる分野

電化製品、自動車やバイクなどの乗り物、ドローンやロボット、エレベーターやエスカレーター、工業用機械、医療機器、無線通信、ワイヤレス充電などの設計、開発