かつてSF映画の画面で飛んでいたクルマで空を移動するという風景も、そろそろ現実味を帯びてきています。安定した移動が可能なドローンの技術を応用している、この「空飛ぶクルマ」について見ていきましょう。
ドローンを発展させた空飛ぶクルマ
複数のプロペラを使って空を飛ぶマルチコプターはドローンと呼ばれ、空撮や荷物の搬送、ショーなどに利用されているのはご存じでしょう。
風の影響を受けにくく安定した飛行が可能なことが特徴です。複数のプロペラを使ってバランスをとり、水平の姿勢を保ったり、特定の方向に素早く向きを変えたりすることができ、ICTを使った高度な自動制御ができるという特徴があります。
2020東京オリンピックの開会式でも、LEDライトを搭載したドローンが演出に使われ印象に残ったのではないかと思います。
現在使われているドローンは、カメラや小さな荷物を搭載する程度の小型サイズが中心ですが、この技術を人が乗ることのできる大きさまで大型化し、空を飛ぶ乗り物として応用したモノが「eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)」と呼ばれています。
「イーブイトール」と読み、電動垂直離着陸機という意味になります。垂直に離着陸するため、ヘリポートのような場所があれば発着でき滑走路は不要です。
空飛ぶクルマは安全性も高い
eVTOLでは多数のプロペラを持つため、1つのプロペラが故障してもすぐには墜落せずに済みます。
似たように垂直離着陸できるヘリコプターは、1つまたは2つのメインローター(プロペラ)を使って推進し、尾翼のローターは姿勢制御用です。メインローターが故障するときりもみ状態になり墜落してしまいますが、eVTOLは飛行性能も落ちますが、故障していないプロペラでサポートし飛行を続けられるので、安全面でもメリットがあるのです。
プロペラの騒音もヘリコプターよりも少なく、気象の影響も受けにくいことから、eVTOLが広く普及してくると、ヘリコプターは置き換えられていくことになるでしょう。
自動で目的地まで飛行し、渋滞もなくなる
現状のeVTOLでは、有人でパイロットが操縦していてヘリコプターや軽飛行機の延長にありますが、ドローンと同じように、あらかじめ設定したルートを自分で姿勢を制御しながら自動飛行させることも技術的には可能です。
国内では経済産業省が「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」という名前で定義づけているように、自動飛行できることが今後の活用でキーポイントとなっています。こういった次世代の空飛ぶクルマは「UAM(Urban Air Mobility)」と呼ばれることもあります。
今のところ、eVTOLやUAMを使った移動は、都市間など近距離を想定しています。2030〜40年ごろには、都市間を自動操縦で飛行する空飛ぶクルマが往来している未来が予想され、そのぶん都市部の渋滞も大幅に緩和することも考えられます。
<SkyDrive「空飛ぶクルマ”SkyDrive”のある未来」>
電動化技術の向上により実現
空飛ぶクルマが現実味を帯びてきたのは、モーターやバッテリー、ICT、AIといった電動化技術の大幅向上によるところが大きく影響しています。ボーイングやエアバスといった航空機メーカーを中心に、ベンチャー企業、航空会社、ICT関連メーカーなどさまざまな企業が開発に参加したり、出資をしています。
国内でも2023年の実用化に向け開発が進む
国内で目立つ取り組みは、愛知県豊田市で開発をしているベンチャー企業「SkyDrive」のeVTOLです。2020年に1人乗りの有人試験機「SD-03モデル」での有人飛行に成功し、2023年には実用化させる予定にしています。4カ所のプロペラにそれぞれ2つ反転して装着されていて、不意なプロペラ故障にも対応できる安全な作りになっています。
<SkyDrive「Flight by SD-03 2020」>
また、東大発のベンチャーで航空機製造スタートアップ企業「テトラ・アビエーション」は、32基のプロペラを持つ「Mk-5(マークファイブ)」を航空ショー「EAA AirVenture Oshkosh 2021」にて公開し、22年までに米国での販売を予定しています。32基のプロペラは4つまで故障しても飛行でき、安全性も高いeVTOLとなっています。今後国内でも販売できるよう、福島県相馬市と提携し開発が進められています。
<テトラ・アビエーション「eVTOL実機とコンセプト公開」>
またSkyDriveにも出資しているNECは、2019年に空飛ぶクルマの試作機を用いて、実験場での浮上実験を成功させています。ほかにも、2025年度にJALとANAは空飛ぶクルマを使って、空港と観光地間の輸送サービスを開始する予定にしているなど、普及に向けての動きがあります。
<SkyDrive「NEC公式「空飛ぶクルマの挑戦 」」>
地方都市まで自動飛行
現在使われている航空機での近距離航路は、eVTOLやUAMに取って代わられる可能性が高いと思われます。航空機の用途は国際便などの遠距離で使われ、国際空港から地方の都市や観光地へ自動飛行の空飛ぶクルマで一気に高速移動するというのが、近未来の移動スタイルになるかもしれません。
これにより、現在はアクセスしにくい地方都市に短時間で移動できるようになり、新たに地方で働く人が増えることや、大都市のみに人口が集中しにくくなるという未来も予想できます。また、生鮮食料品や医薬品など、スピードが要求される物流にも活用されることでしょう。
「空飛ぶクルマ」に関する大学の学部
空飛ぶクルマの技術を学ぶのは、工学部がメインになるでしょう。理工学部系では空気力学や流体力学に関して学ぶこともできます。航空宇宙工学ともつながっています。慶應義塾大学大学院附属システムデザイン・マネジメント研究所には、そのものズバリの「空飛ぶクルマ研究ラボ」があります。
慶應義塾大学大学院附属システムデザイン・マネジメント研究所「空飛ぶクルマ研究ラボ」
https://nakano.sdm.keio.ac.jp/research/flying_car/
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