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今世界が注目する唾液研究! 神奈川歯科大学 槻木先生が語る【唾液に秘められたパワー】とは

近年、多くの研究機関が「唾液」の成分や働きに注目しています。感染症の予防をはじめ、がんの早期発見、アンチエイジングなどにも深く関わっている唾液。今回は、唾液・唾液腺研究の第一人者である神奈川歯科大学の槻木恵一先生に、唾液の働きや最新の研究についてお聞きしました。

先生のプロフィール

槻木 恵一(つきのき けいいち) 先生
神奈川歯科大学副学長・大学院研究科長、大学院口腔科学講座環境病理学教授。著書は『唾液サラネバ健康法』(主婦と生活社)、『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』(扶桑社)など多数あり、テレビをはじめとするメディアにも出演。『anan』(2021年2月3日号)や『ESSE』(2021年3月号)などの雑誌では、記事の執筆や取材協力で、美容と健康、免疫力など、唾液の働きについてわかりやすく解説している。

<唾液に秘められたパワーとは! 神奈川歯科大学 槻木先生>

感染予防やがんの早期発見にも期待! 唾液に秘められたパワーを研究

唾液は、様々な役割を果たしています。唾液の99.5%は水分ですが、残りの0.5%にはアミラーゼ(消化作用)、ムチン(粘膜保護作用)、IgA(抗菌作用)など、100種類以上の重要な成分が含まれているのです。

例えば、肌のターンオーバーを促すEGF、コラーゲンやヒアルロン酸を生成する線維芽細胞の増殖を促すFGFなど、美肌に関係している成長因子も含まれています。高級食材として知られるツバメの巣は、アナツバメが唾液を固めて作ったものですが、美肌効果が期待できるのもこれらの成分が含まれているからです。最近は、感染予防の重要な役割を担うIgAへの注目が高まっています。

唾液の中に含まれる物質を調べることで、全身の状態を把握できる場合もあります。唾液は血液から作られるので、血液成分が反映されていることがあるからです。近年は、唾液を使って疲労度やストレスの測定をしたり、がんの発見にも役立てています。

世界が注目! 新型コロナウイルスに関する唾液の研究

私が今、重点的に行っているのは、唾液中に含まれる新型コロナウイルスに対する抗体の研究です。

研究を進めていくと、新型コロナウイルスに感染したことのない人の唾液中に、新型コロナウイルスに対する交叉IgA抗体があることがわかりました。交叉IgA抗体は、過去の一般的な風邪を引き起こすコロナウイルスの感染により、これまで感染したことがないコロナウイルスにも反応する抗体です。

研究対象者の約半数に、交叉IgA抗体が認められました。また、交叉IgA抗体は、50歳未満に多く、50歳以上には少ないこともわかりました。若い人が重症化しないのは、唾液によるウイルスのブロックが重要な役割を果たしているからかもしれません。

この研究から、口腔の粘膜免疫を強化することが、新型コロナウイルスの感染防止に役立つ可能性が見えてきました。エビデンスを求めて、さらなる研究を進めています。

唾液研究から見えてくる「未来の可能性」

健康診断や病気の進行度を調べる際には、採血による検査が一般的ですが、唾液で検査を行えるようになれば、検査医療にイノベーションをもたらすことができます。唾液による検査は、簡便であることが大きなメリットです。場所を問わずに行え、体に負担を与えません。

私が行った研究では、血液検査で使われている前立腺がんの腫瘍マーカーPSAが、患者の唾液にも含まれることがわかりました。発見が難しいすい臓がんの検査なども、かなり研究が進められています。

自分では気づきにくい疲労度なども、唾液で確認することで、過重労働や過労死を防ぐための基準を作ることができるかもしれません。スポーツの分野では、アスリートのコンディションチェックの一環として、唾液検査による疲労度の可視化がすでに取り入れられています。

親の目線で研究が求められれば、スマホやゲームをやりすぎているかどうかなども、唾液で簡単にわかる時代が来るかもしれません。

“唾液のマエストロ” 槻木先生は、どんな人?

「最近は自分で漬けたぬか漬けをお供に、家飲みをするのが楽しみです。毎日欠かさず、ぬか床のお世話をしています。お気に入りは、かぶのぬか漬けです。発酵食品なので体にもいいですが、残念ながら家族は誰も食べてくれません(笑)」(槻木先生)

槻木先生から高校生へメッセージ

「唾液には100種類以上の成分が含まれているので、様々な分野に応用できます。高校生や大学生から、こんなことを調べてみたい、〇〇を唾液で調べてみようなど、どんなアイデアが出てくるか楽しみです。

歯学部は研究室に所属することが必修ではありませんが、研究をしてみたいという学生がいれば歓迎します。唾液の研究に興味を持ち、もし、やってみたいという研究があれば、ぜひ提案してください。一緒に唾液のパワーを研究しましょう!」

学校法人 神奈川歯科大学
http://www.kdu.ac.jp/

神奈川歯科大学 歯学部歯学科
http://www.kdu.ac.jp/dental/