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デジタル社会の進化の要!【センシング・テクノロジー】の研究。自動運転、AI、ロボット

IoT機器によってさまざまなモノがインターネットにつながっていく現代において、ネット回線や半導体と同じように重要なパーツに、周囲の状況を知るための各種センサーが挙げられます。機械の内部に組み込まれるセンサーは、普段は意識することが少ないかもしれませんが、Society 5.0、デジタル社会には欠かせないもの。このセンサーを使った技術「センシング・テクノロジー」について解説します。

センサーはIoT機器の要。「センシング・テクノロジー」はそれを活用する技術

光や温度などを検知するセンサーは、私たちの身の回りの家電製品、工場の機械、自動車などの乗り物など、多くのものに搭載されており、現代のIoT機器になくてはならないパーツといえます。

モノのインターネットとも呼ばれるIoT機器は、生活に密着したさまざまな機器をインターネットへ接続しようとするコンピューターのことです。これまでもネットにつながっていたサーバーとコンピューター、スマートフォンといった情報機器はネットにつながっていましたが、それ以外の多くの機器がネットにつながって、新しいサービスを提供してくれます。

IoT機器で使われるセンサーは、「周囲のさまざまな変化をデジタルデータに置き換える」ためのパーツと考えてもよいでしょう。センサーの主な用途は、機械を自動制御するためのデータを得ることですので、なるべく小さめのサイズで、周囲の状況が判断できるように組み込まれています。

センサーから得られたデジタル情報は、IoT機器がインターネットを介してサーバーとやりとりし、最適な動作や表示を判断する材料となります。このセンサーを使った技術のことを「センシング・テクノロジー」と呼ばれます。

あらゆる変化を捉えデータ化するセンシング・テクノロジー

センシング・テクノロジーを使って感知できるデータは多岐にわたります。代表的なセンサーだけでも、映像を記録する「映像センサー」、光の有無や色を感知する「光センサー」、温度や湿度を計測する「温湿度センサー」、動きを検出する「加速度センサー」、傾きを測る「ジャイロセンサー」といった種類が挙げられます。

他にも、あらゆる変化の情報を得られるよう、さまざまなセンサーが作られています。計測方法は、直接対象と接触するもの、非接触で検出するものなどさまざまです。

センサーで感知できるデータ

映像、光、色、温度、湿度、加速度、傾き、圧力、流量、振動、距離、速度、力、熱、電圧、電流、電界、抵抗、静電容量、磁場、赤外線、エックス線、可視、超音波、電波、水、ガス、pH、味、臭気

現在のところ主に産業用機器で使われていますが、ここ数年のセンシング・テクノロジーの進化は実にめざましいものがあり、街中や乗り物、工場などで使われ、私たちの生活を支えるようになってきています。

イメージセンサーが劇的に進化しIoT機器の目になった

近年もっとも進化が顕著なのが、映像(イメージ)センサーです。映像センサーには、電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化膜半導体(CMOS)といったダイオードを応用した半導体が使われ、この高精細化の進歩によって、光の少ない場所でも緻密な映像を記録することができるようになっています。

コンシューマ(一般消費者)向けの一例を挙げると、ソニーが1997年に発売したデジカメ「デジタルマビカ」の映像センサーは、約38万画素(長辺640ピクセル)という品質でした。それが2021年の同社の一眼レフ「α7R IV(35mmフルサイズ)」では約6100万画素(9504ピクセル)の映像を得られるほどに技術は向上しています。約160倍の画素数です。

進化したのは画素数だけではありません。明るい場所から暗い場所まで連続して記録する能力も、比較にならないほど向上しました。現在ソニー(ソニーセミコンダクタソリューションズグループ)は、映像センサーの世界シェアでトップを獲得しているほどです。

このようなセンサーの基本性能の向上が、現在の自動運転をはじめとした映像認識をするセンシング・テクノロジーの精度に大きな影響を与えるようになっているのです。

自動車や監視カメラにも活用されている映像センサーは、細かな映像により物体を判別させる精度が高まり、さらに映像センサーそれ自体で距離の深度情報も得られます。人工知能(AI)処理機能をセンサーと連携させること(エッジAI処理などと呼ばれます)も可能となり、人間の顔や車両などの認識に使われています。

<AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー【ソニー公式】>

立体的に把握するセンシング・テクノロジー

近年では「LiDAR」と呼ばれる、レーザーを照射し、遠距離の画像や性質の検出と測距(そっきょ)が可能なセンサーも利用されています。身近なところでは、クルマの自動運転に使われていますが、ほかにも航空や宇宙、地質観測、監視カメラなど、遠隔での立体計測に活用されています。

このLiDARは、近年スマートフォンにも搭載され、アプリで簡単に周囲の状況を立体的に把握できるようになりました。

<車載LiDAR向けSPAD距離センサー【ソニー公式】【ソニー公式】>

正確な位置情報を得るためのセンシング・テクノロジー

ほかにも位置情報を得るために使われる「全球測位衛星システム(GNSS/Global Navigation Satellite System)」も重要なセンサーといえます。これは、衛星通信を使った位置情報取得システムで、カーナビやスマートフォンのマップで一般的に使われるGPS(Global Positioning System)と呼んだほうが聞きなれているかもしれませんが、これはアメリカのシステムの名称になります。測位衛星は各国で整備が進んでいます。

日本では「みちびき」で正確な位置情報が把握できる

日本では、2017年に日本版GPSと呼ばれる衛星測位システム「みちびき(QZSS)」が4機体制で運用が開始されていて、2023年には7機体制になることが閣議で決まっています。すでに対応するセンサーを使って精度の高い位置情報を取得でき、スマートフォンのナビをはじめ、ドローンの航行や各種乗り物の自動運転に活用されています。

みちびき:準天頂衛星システム(QZSS)
https://qzss.go.jp/overview/services/sv01_what.html

「みちびき」をはじめとした全球測位衛星システムの動作状況は、以下のページで簡単に確認でき、「SELECT SATELLITE」の項目で「GNSS」以外のチェックを外すと、「みちびき」のみの位置を表示されます。「GPS」はアメリカ、「GLONASS」はロシア、「BeiDou」は中国、「Galileo」は欧州連合(EU)のシステムになります。

GNSS View
https://qzss.go.jp/redirect/gnssview.html

センシング・テクノロジーと「AI」は相互に進化していく

センシング・テクノロジーの進化により、さまざまな状況をデータ化し、遠隔地で起きていることを、かなりの精度で感知できるようになりました。そして5GやWi-Fi(無線LAN)の進化もあり、場所を問わずリアルタイムにセンサーから得たデータが蓄積されています。これら進化だけにとどまらず、機械学習やAIの進化とあわせることで、認識の精度を高める研究も進んでいます。

ここ近年でAIが実用的になってきているのも、センサーの精度、特に画像センサーの密度が大幅に上がった(=精密なデータが得られる)ことが大きな要因になっています。

「センシング・テクノロジー」を学べる大学の学部、学科

センシング・テクノロジーやセンサーの仕組みを学ぶことができるのは、主に工学部になります。IoT機器やロボット工学などを含め、動くモノを作ったり、実験をする場合に必ず利用しますので、実験と研究を行う理系に進むと広く触れられるでしょう。

<慶應発!画像センシング技術の実用化を目指して:慶應義塾大学 理工学部 青木研究室>

『センシング・テクノロジー』の活用が期待できる分野

自動車や鉄道、飛行機などすべての交通、工場での機器の制御、監視カメラシステム、監視や観測システム、地質調査、測量、ロボットの制御、自動ドアやエスカレーター/エレベーター、自動販売機、ATM、自動改札、街灯やサイネージ、家電、健康機器、道案内/ナビゲーションシステム、農業の自動化、航空宇宙、医療、ゲーム機器