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【都市OS】スマートシティ実現に必須! 複数の都市が連携して新たな価値、サービスを生み出す時代へ

新しい街の姿「スマートシティ」に向けて日本の自治体は変わろうとしています。それに必要なのがデジタル化とデータ連携です。自治体がデジタル化を進めてデータ活用を推進し、さらに他の市町村、組織と連携して新しいサービス、価値を市民に提供する。そのために必要なのが「都市OS」です。今回は、スマートシティ、そしてSociety 5.0に不可欠とされる都市OSについて解説します。

都市OSがあると何が変わる? そもそもOSの役割は? 

OSとはパソコンやスマートフォンのなかにある「基本ソフト」「オペレーティングシステム」と呼ばれるもの。パソコンであれば、WindowsやmacOS、Linux、スマートフォンではAndroidやiOSなどが有名です。このOSを介してユーザーはパソコンやスマートフォンを操作したり、アプリを動かしたりします。

OSはさまざまな役割を持っていますが、もし「OSがなかったらどうなっていたか」を想像してみましょう。

あなたが「OSが入っていないスマートフォン」を手に入れたとします。しかし機械(ハードウェア)としてどんなに高性能であったとしても、OSがなければ「好きなアプリをインストールして楽しむ」こともできませんし、「インターネットに接続して、ネットショップで買い物をする」なんてこともできません。

つまり今、みなさんがスマートフォンで新しいアプリをインストールして楽しんだり、ネットサービスを利用できるのも、スマートフォンのなかのOSのうえで、さまざまなアプリが動いているから。OSという共通の土台を利用することで、いろいろなシステムやサービスと接続できるわけです。

都市OSとは?

スマートフォンやパソコンがOSを使って、アプリを動かしたりさまざまなサービスを利用できるのと同じように、自治体のシステムも他の自治体のシステム、他のサービスとデータ連携することで、より便利な社会へ歩んでいこうということ。そのために必要なのが「都市OS」というわけです。

総務省は2020年に公開した「スマートシティリファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー」で都市OSを以下のように説明しています。

「スマートシティ実現のために、スマートシティを実現しようとする地域が共通的に活用する機能が集約され、スマートシティで導入する様々な分野のサービスの導入を容易にさせることを実現するITシステムの総称」

そして都市OSの持つ特徴として「相互運用(つながる)」「データ流通(ながれる)」「拡張容易(つづけられる)」の3点を挙げています。このことから、都市OSは、自治体のデータを他と連携することを重視するものということがわかるでしょう。

パソコンやスマートフォンでは、やもすると「同じOSに統一しよう」という話になりがちですが、都市OSの場合は「すべての自治体で同じ都市OSに統一しよう」という話ではなく、「データをいろいろなところと連携するための基盤を作ろう」という目的なのです。パソコンやスマートフォンでいう「OS」とは立ち位置が異なる点に留意してください。

・スマートシティリファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/a-whitepaper1_200331.pdf

行政が関わるさまざまなサービス、事業をデジタル化、連携して有効活用

そして、都市OS上で、行政、インフラ、公共交通や物流、住民の健康や医療、福祉、教育、防犯や安全、さまざまな産業、エネルギー、環境などに関するデータを蓄積、活用し、住民に対してさまざまな新しいサービスを提供していくことを目指しています。

また、スマートフォンにアプリを入れることで新しい機能、サービスが利用できるのと同じように、都市OSは新しい機能を追加しやすいという特徴を持ちます。よその市町村で便利なシステムを開発したら、それを自分の自治体の都市OSにインストールすれば、スムーズに利用できるようになります。

さらに、必要に応じて他の市町村の都市OSとネットワークで接続し、データ連携させることも可能になります。各自治体が、別々のICTシステムではなく、それぞれが連携できる都市OSを使っていれば、協調して運用しやすくなります。

Society 5.0、スマートシティ構想と都市OS

前述の都市OSの定義でスマートシティに言及されていたことからわかるように、都市OSが注目されるようになった要因には、日本の政府が推進しているSociety 5.0やスマートシティ構想が挙げられます。

Society 5.0は、簡単にいえば「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステム社会」であり、それを実現した街がスマートシティです。そのシステム構築のベースとなるのが都市OSになります。

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<OPEN MY EYES:日本型スマートシティモデル実現と都市OS | Accenture Japan>

自治体のシステムが抱えていた問題点

ICTシステムそもそも、どこの自治体であっても市民サービスとして提供される仕事は、似たようなもの。住民票などの発行、ゴミの回収、国民健康保険や介護保険、税金の徴収、上下水道の運営などなど、日本全国どこの市町村でも同じようなことをやっています。

現状の自治体のICTシステムはバラバラ、他との連携は困難

にもかかわらず、それらの業務を遂行するためのICTシステムが「自分たちの自治体向けに作った」個別のものを使っているところがほとんど。ICTシステムが違うということは、データ形式も異なります。そのため、「他の市町村のICTシステム」と連携させるといったことはあまり考慮されていません。

いい例が新型コロナウイルスワクチンの接種券です。接種券のデータは市町村ごとに管理されているため、引っ越しをすると面倒なことが起こります。例えば1回目から3回目までA市で接種した後にB市に引っ越したとしましょう。普通なら接種時期になれば接種券が届くのですが、B市ではA市での接種データを持っていません。そのため改めて申請をしないと接種券が届かないのです(一部の市町村では申請しなくても届くようですが)。

そのような弊害をなくすには、まず「データの利活用がしやすく、他と連携が取りやすいようなしくみを持ったICTシステム」に変えること。そのために、都市OSが注目されているのです。

都市OSに関する大学の取り組み例

都市OSがどれほど有用であるとしても、「じゃあ、来年からうちの街も都市OSを導入しよう」というわけにいきません。自分一人が使うパソコンであれば、OSを入れ替えることは比較的簡単ですが(知識と手間は必要ですが)、都市OSに切り替えるとなればたくさんの人が関わりますし、市民サービスにも影響が及びます。またメリットを最大限に生かす活用法も考えなくてはいけません。

そこでさまざまな実証実験、研究などが行われ、そこに日本の大学も関わっています。

会津大学の取り組み

2020年、会津大学とアクセンチュアは、スマートシティの標準APIと都市OSに関する共同研究を開始すると発表しました。APIとはアプリケーション・プログラミング・インターフェースのことで、簡単にいえば、特定の機能をひとつにまとめておくことで、別のシステムに流用しやすくする機能のこと。

APIを使うことで、他のシステムとの連携がしやすくなります。標準APIを使って、ほかの市町村、民間企業、NPOなどとのデータ連携をスムーズに実行できるようになるのです。

・アクセンチュアと会津大学、スマートシティの標準API と都市OSに関する共同研究を開始
https://newsroom.accenture.jp/jp/news/release-20200706.htm

東京大学の取り組み

東京大学と三井不動産は、2020年に「三井不動産東大ラボ」を設立し、「経年優化する都市 -afterコロナを見据えたデジタル革命による次代の価値創造-」と題して都市に関するさまざまな研究を行っています。

そのなかのワーキンググループ(WG)のひとつに「データ活用による都市サービスの実現手法の研究」があり、そこで都市OSについても研究しています。

・スマートシティWG:データ活用による都市サービスの実現手法の研究
https://mfut-lab.ducr.u-tokyo.ac.jp/theme_post/wg3/

<三井不動産東大ラボ スマートシティWG研究紹介~データ活用による都市サービスの実現手法の研究~>

「都市OS」について学べる大学の学部、学科

都市OSは、ICT、特にデータ連携に関わるものなので、理学部、理工学部のなかの、情報工学科、情報学科などの分野が専門になります。

また都市OSそのものの研究はしないとしても、街作りにも関わる分野でもあるので、都市政策、都市行政、都市経営、観光、地域政策などに関わる研究をする文系の学部や学科でも、都市OSについて理解を深めておくことは重要といえるでしょう。

参考

・SIPサイバー/アーキテクチャ構築及び実証研究の成果公表(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20200318siparchitecture.html

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