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日本の未来ビジョン【Society 5.0】とは? 経済界も注目、大学でも研究・人材育成が進む!

Society(ソサエティー)とは社会のこと。最近目にするようになったSociety 5.0とは、インターネットが私たちの身の回りのリアルなものと深くつながり、生活や仕事、サービスなどが便利になる社会を指します。このSociety 5.0実現に向けて目指している未来のビジョンについて解説します。

Society 5.0とは?

日本が目指そうとしている未来社会であるSociety 5.0とはどのようなビジョンでしょうか。簡単にいえば、インターネットが私たちの生活や仕事のいたるところに浸透したIoT(モノのインターネット)社会です。

といっても、家電などのモノがネットワークに接続されるだけという単純な話ではありません。いろいろなモノから収集されたデータが、インターネットというサイバー空間に収集され、人工知能(AI)によって分析され、その結果が私たちの暮らしを便利にしてくれることになります。

私たちの家、学校や会社、店舗や病院、交通機関など、社会全体がネットにつながり、さらに進化して、いろいろなことが便利になる社会がSociety 5.0というわけです。

<20XX in Society 5.0~デジタルで創る、私たちの未来~>

Society 1.0から4.0までの歴史

そもそも、このSociety 5.0は「第5世代の社会」という意味合いで名付けられたものですが、Society 4.0以前はどのような社会だったのかを整理してみましょう。

Society 1.0:狩猟社会

動物を狩ったり植物を採取したりして食糧を得ていた原始的な社会です。ただ社会といっても非常に小規模な単位でした。

Society 2.0:農耕社会

農業が始まり、文明が誕生しました。農耕社会により、人口が増え、村落も大きくなり、国も生まれました。

Society 3.0:工業社会

18世紀には産業革命が起こり、工業社会が始まります。商品は大量生産され、鉄道や自動車により人の移動も盛んになります。

Society 4.0:情報社会

20世紀にはコンピューターやインターネットが発明され、情報が大きな価値を生み、私たちが普段使うようなさまざまなサービスが誕生しました。

そして、Society 4.0をさらに発展させたものが、Society 5.0になります。

現実空間と仮想空間の融合とは?

このSociety 5.0という言葉は、日本政府が2016年閣議決定したに第5期科学技術基本計画で打ち出したもので、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義されています。

この定義を見ても想像しにくいのが「仮想空間と現実空間を高度に融合させた」というところではないでしょうか。

現実空間と仮想空間が常時通信して自動運転を実現

Society 4.0では、現実空間にあるモノも仮想空間にある情報も、操作するのは人間です。

スマートフォンのカーナビアプリを使って自動車を運転する様子を考えてみましょう。まず人間がカーナビアプリの画面を操作して目的地を入力して検索します。そしてカーナビが指示する道順にしたがって人間が自動車を運転します。

一方、完全な自動運転車はまさにSociety 5.0の世界といえます。自動運転では、人間が目的地を指定するだけで、自動車は地図、道路の混雑状況、天候などの膨大な情報をネットと通信しながら、AIが自動車を走行させます。

つまり、「現実空間」の情報を、ビッグデータとして「仮想空間」で分析し、その結果を踏まえて、「現実空間」にある自動車を走らせるということです。Society 4.0では操作の主体が人間だったのに対し、Society 5.0では、AIが、人間に役立つことを実行するように働くといえるでしょう。

それが現実空間と仮想空間の融合のイメージです。このような融合が、自動車だけでなく、私たちの身の回りのモノ、各種サービスなどで起こり、社会全体がつながって、いろいろなものが便利になるのがSociety 5.0というわけです。

SDGsにも貢献

便利だけが目的ではありません。前述の定義では「経済発展と社会的課題の解決を両立」とも記されています。日本政府は、Society 5.0によって、ロボットやドローンなどの新しいテクノロジーの活用を促進し、さらにエネルギー問題、食糧問題、格差などの問題解決につなげたいと期待しているのです。

また国連が2030年までに実現したい目標としてSDGs(持続可能な開発目標)を打ち出していますが、このSociety 5.0も、SDGsに挙げられている貧困や教育、エネルギーなどの課題解決に役立つものとして位置づけられています。

経団連もSociety 5.0に向けた人材育成を要望

日本の経済に大きな影響力を持つ日本経済団体連合会(経団連)も、Society 5.0には大きな期待を寄せており、大学に対してもそれを踏まえた人材育成を期待しています。

2019年1月、経団連は「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を設立。そして2020年3月には「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」を発表しました。

そのなかで「今回の産学協議会の目的は、(中略)Society 5.0 において、新たな領域に挑戦し社会に付加価値をもたらすことのできる人材を、日本社会全体として最大限の教育効果が得られるようなかたちで、産学がいかに協働して育成していくべきか、それをどう実現していくべきかという点にある」と言及しています。

<Society 5.0時代の大学教育と採用のあり方に関するシンポジウム>

Society 5.0に到達した社会の姿

スマートホームや自動運転だけでなく、さまざまな分野で現実空間と仮想空間の融合は進み、社会は大きく変化していくでしょう。

遠隔医療や病気の早期発見に

医療といえば、病気やけがのときに病院に行って治療を受けることがイメージされます。しかしSociety 5.0では、病院に行かないで治療を受ける遠隔医療などが普及していくでしょう。

また日常生活にも医療が頻繁に関わってくるとも予想されます。例えば、体に取り付けたセンサーにより一人ひとりの身体の情報(バイタルデータ)が仮想空間に収集、蓄積されます。そして、健康増進に向けたアドバイスを受けたり、病気の早期発見に役立てます。またそのデータは一人ひとりに最適な治療、あるいは遠隔医療を受けるためにも活用されます。

製造業では、バリューチェーン全体が一連に

モノづくりでは、設計、原材料の調達、製造、物流、販売というバリューチェーンの流れに乗って消費者のもとに商品が届けられます。しかし従来は、設計、製造、物流などは分かれ、それぞれが独立した形で管理されていました。

ところが仮想空間上ですべてのデータを集約すれば、工場や物流の拠点が離れていても、バリューチェーン全体を一元的に管理、分析できるようになります。消費者のニーズに迅速に対応できたり、最適な生産計画、物流計画の立案もしやすくなります。

ほかにも、Society 5.0に向けた取り組みは、農業、漁業、教育、介護、あるいは、商品を販売する小売業、暮らしを守るインフラ整備、災害発生時の対応などさまざまな分野で検討されています。

Society 5.0について学べる大学の学部、学科

Society 5.0に関する技術や学問は、大きくICT分野と利用する分野の二つに分けられます。

すべての分野に関わるのがICTです。ICTでは、現実空間にある多種多様な機械に取り付けるセンサー類、センサーから送られるデータを収集、蓄積するシステム、そのデータを分析するAI、あるいはドローンやロボットなども含まれます。大学では、主に理工学部や情報科学、データサイエンス関連の学部、学科で扱います。

また医療関係は医学部や福祉に関連する学部、製造業関連は工学部、農業や漁業などは農学部や水産学部で扱うことになります。

ただ、Society 5.0については社会全体のテーマであるため、ほぼすべての学問で何らかの関わりがあるといっても過言ではありません。大学でどのような学問を志すとしても、Society 5.0について関心を持つことは重要といえます。

『Society 5.0』の研究が応用できる分野

ICT、AI、IoT、ロボティクス、エネルギー、食品、農業、街づくり、物流や交通、製造、医療や介護など

参考

・内閣府 Society 5.0
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

・経団連 Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/028.html