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【スマート農業】で食料問題や人手不足を解決! 産官学連携で加速する新時代の農業

人間が手塩にかけて農作物を育てる。そういう昔ながらの農業の姿が、ICT(情報通信技術)の力によって変わろうとしています。ロボットによる農作業の自動化や、AIとデータを活用した高度な生産管理など、「スマート農業」と呼ばれる新時代の農業について解説します。

「スマート農業」が解決する、農業の課題

私たちが食べる食料を作る農業は、人間社会を支える基盤となる非常に重要な仕事です。少子高齢化にある日本では人口減が問題視されていますが、世界的な視点で見ると人口は増えており、将来は食糧不足が大きな問題になると認識されています。

ところが、農業は種まき、田植え、収穫だけでなく、水まき、農薬散布、害虫駆除など、非常に多くの労力が必要です。農業機械が普及しているとはいえ、人間の重労働も少なくはありません。

また、得られる利益も、天候や収穫量、品質によって大きく変動するというリスクが伴います。収穫の季節に大きな台風や水害が起これば、大きな損害になることもあります。

食糧が不足するのに作る人がいなくなる?

仕事の担い手である労働力不足、後継者不足も懸念されています。特に、商品価値の高い「おいしい野菜」「甘い果物」などを作るには、長年の経験に基づくノウハウが欠かせません。それらは、農業従事者が長い年月をかけて、習得してきたものです。

ところが農業従事者の高齢化が進み、担い手も減りつつあります。後継者が見つからない場合は、廃業する農家も出てくるでしょう。このままでは、せっかくの技術も継承されずに失われてしまうかもしれません。

つまり現代の農業は「膨大な労力」「リスク管理の難しさ」「担い手や後継者の不足」などの課題を抱えているのです。それらの課題をICT、人工知能(AI)、ドローン、ロボットなどの活用によって解決しようというのが、「スマート農業」です。

「スマート農業」の取り組みは、今、産官学連携でも積極的に行われています。
また、大学の農業関係の学部は、かつては農業そのものを学ぶところでしたが、社会の変化を受けて発酵などのテクノロジーへと手を広げ、そこにスマート農業というアプローチが登場したことで、改めて新しい農業に向けた研究が始まっています。

<スマートアグリシティ実現に向けた産官学連携協定の取り組み:NTT東日本>

AIやドローン、ロボットが課題解決の切り札に

これまで、自然を相手にする農業はICT(情報通信技術)化しにくい分野とされていました。近年のスマートフォン、IoTデバイス(ネットにデータを送れるセンサー類)やドローン(小型の空飛ぶデバイス)やロボット、ウエアラブルデバイス(体に身につける機械)などの実用化は、農業においてもICT化を加速させました。

従来の一般的なICT化はパソコン作業が中心でしたが、パソコンは農地に持って行っても使い道があまりありません。ところが、これらのデバイスの最先端技術は田や畑など農業でも利用できるというのが大きな違いでした。

では、具体的に「スマート農業」にはどのような取り組みがあるのでしょうか。

24時間モニタリングにより、従事者の負担を軽減

農業は自然相手の仕事ですから、会社の務めのように勤務時間が決まっているわけでもなく、早朝から夜遅くまで農作物の面倒を見なくてはいけません。日々、生育状況を確認し、天候が悪化したり台風が来れば、農作物が被害を受けないように対処します。そしてそのたびに農地に足を運ぶ必要がありました。

その負担を軽減するのが、24時間監視するセンサーやカメラです。温度やCO2濃度などをリアルタイムでモニタリングできるので、農地に行かなくても環境を確認できます。ドローンを使えば、遠隔地からカメラで発育状況も映像で確認できます。

確認だけではありません。ビニールハウスなど閉じた空間であれば、過去のデータをもとにして、最適な温度、CO2濃度などの環境を作って、品質の高い農作物の生産にも生かせます。

アシストスーツで重労働から解放

収穫の時期になると、農産物を畑の真ん中からトラックのある道路まで運び出す必要があります。しかし、人間の力で何度も何度も繰り返し、大量の農作物を運び、トラックに積むのは重労働でした。

そこで期待されているのが、アシストスーツです。アシストスーツとは、手や足、腰などに身につける器具のこと。アシスト付自転車の身体版と考えればいいでしょう。アシスト自転車は、人間がペダルを軽く踏むと、それに合わせて力を加えてくれます。その結果、弱い力でも自転車は軽快に走ってくれます。

アシストスーツも同様に、人間が軽く力を入れると、それに合わせて、アシストスーツが力を補ってくれます。そのため重いものを持ち上げて運ぶときに、人間はあまり力を使わずに済みます。

ICTを使ってベテランの技を継承

農産物の収穫量や品質を上げるには、長年の経験から来るベテランのカンが重要でした。そのカンをICTで若手に継承しようという試みも始まってます。

例えば、ウエアラブルデバイスの活用です。ウエアラブルデバイスでベテランの動きを記録し、AIで分析すれば、データ化したノウハウを後継者が活用しやすくなります。同様に、トラクターなどの農業機械もIT化することで、作業の内容も記録できるようになります。それも、後継者の技術継承に役立てられます。

農地を使わない植物工場

従来の農業は、「土壌」が基盤でした。土壌の豊かさが農作物の栄養、さらには味へとつながっていたからです。ところが土を使わないタイプの「植物工場」が登場してきました。

植物工場には、さまざまな種類がありますが、太陽光さえ不要とする植物工場もあります。本来の植物は、太陽光を受けて光合成をすることで生育します。

ところが屋内の植物工場では、植物にとって必要な光を照射することで生育を促します。人工の光なので植物工場では日照時間も管理できます。そのため、四季を問わず、季節野菜を作ることも可能となります。

栄養も必要な要素を根から吸収させれば、土壌も使わずに済みます。それは、広大な農地がなくても農業ができるというメリットにもつながります。

このように温度やCO2、湿度、栄養の種類を人間が管理できる植物工場では、「広大な農地を必要としない」「季節に関係なく、いつでも必要とする農産物を育てられる」「重労働しなくて済む」などのさまざまな利点があります。

他にも、スマート農業には人工衛星から撮影したデータをAIで活用することで、農地周辺の気候や熱などを分析に加え、収穫量の予測を行うなど、さまざまな研究が進んでいます。

<山口大学農学部:植物工場>

「スマート農業」について学べる学部や学科

スマート農業への取り組みは、全国の農業大学で行われています。九州大学の農業生産システム設計学研究室では、「IoTを用いた環境計測・制御システムの開発に関する研究」や「低コスト農業支援ロボットの開発とその妥当性の検証」など、さまざまな先進テクノロジーを用いてスマート農業に取り組んでいます。

また、農業を専門的に取り扱っている東京農業大学では、従来の農法を研究するだけでなく、スマート農業に対する研究も積極的に行っています。大学全体でさまざまな実証実験が行われており、各研究室でも先進的なスマート農業への取り組みが進められています。