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強い街を作る【防災、減災】の研究とは? さまざまなリスクから命を守る災害対策

台風や豪雨、洪水、豪雪、地震や火山噴火など、日本はたびたび自然災害に襲われ、多くの被害に見舞われてきました。地球温暖化による異常気象が増えるとされるなか、今後も自然災害による被害は続くでしょう。この災害大国日本で社会を維持していくには、防災、減災に向けた対策が欠かせません。今回は、これからの社会、未来の都市計画を考えるうえで重要な災害対策について解説します。

災害大国日本で重要な『災害、減災』の対策

日本は自然災害の多い国とされています。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災では、多くの建物が倒れ、各地で火災が起こり、交通網や電気、ガスなどの公共インフラも途絶えるなどの事態に陥りました。さらに東日本大震災では大きな津波も発生し、非常に多くの犠牲を生みました。

台風、集中豪雨、洪水など水害は毎年のように発生

また平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風など、大きな水害も毎年のように発生しています。令和2年版の防災白書によると、1990~2019年における日降水量200mm以上の大雨の発生回数が、1901~1930年と比較すると約1.7倍に達しているように、自然災害の頻度も年々高まっているといえます。

将来の南海トラフ巨大地震への備えも

将来は、日本の南側の南海トラフにあるプレート境界を震源とした巨大地震が発生するのではないかとも懸念されています。これまでも南海トラフを震源とする地震は100〜150年の間隔で発生しており、近いうちに再び起こるのではないかと推測されているからです。

サイバー攻撃やテロもリスクのひとつとして包括的な対応を

私たちの社会を脅かすリスクは、自然災害だけにとどまりません。サイバー攻撃やテロ、あるいは現在世界中で深刻な問題となっている新型コロナウイルス感染症なども、社会に混乱を招く災害といっても過言ではないでしょう。私たちは、それら社会を脅かすさまざまなリスクに備えて、街づくり、都市計画を考えなくてはいけません。

自然災害対策「ハード防災」と「ソフト防災」

自然災害への対策は大きくハード防災とソフト防災に分けられます。

ダムや堤防で物理的に守る「ハード防災」

物理的な構造物を使って災害からの被害を緩和するハード防災は、人が住んでいる街を守るための備えといえます。ハード防災には、河川の氾濫に備えたダムや堤防、あふれた水をためる遊水地や防災調整池、雨水貯留施設、海岸沿いの防波堤などが挙げられます。

また災害時に交通インフラを守るための、道路が水浸しにならないような冠水対策、土砂崩れや地すべりを防ぐ法面(のりめん)対策、倒壊を防ぐための建築物の耐震性能向上なども、ハード防災に含まれます。

災害に備えて用意をする「ソフト防災」

ソフト防災は、避難するためのハザードマップを用意したり、防災教育や避難訓練を充実させることなどを指します。災害発生時の対応マニュアル、警報システム、SNSを活用した災害情報発信なども、ソフト防災に含まれます。

さらには、行政機関や企業が、災害にあったときでも業務や事業を継続できるように備えるBCP(事業継続計画)も、ソフト防災のアプローチのひとつといえるでしょう。災害時であっても、可能な限りビジネスを止めないことで、復興が早まる可能性が高まるからです。

このようにソフト防災は、普段から災害への関心を高めたり、災害時の行動を学習しておくことで、被害を最小限に抑えようという、人間の考え方や行動に働きかけるアプローチといえます。

東京大学で2018年、国内初となる「災害対策トレーニングセンター」を設置しました。これは、災害対応に関する情報、技術、ノウハウなどを集めて、日本の社会にマッチした非常時の避難、対応の標準化などを目指したものであり、防災組織のリーダーを対象にトレーニングや教材の提供などを行います。これもソフト防災のひとつといえるでしょう。

重要なのはハード防災とソフト防災の両面からの対策

かつてはハード防災が中心でしたが、近年はソフト防災とあわせて、防災、減災を考える方向性へと代わってきました。

というのも自然災害は、いつどこで発生するか予想できないもの。ハード防災は、対策を施した地域では効果が期待できますが、対策が行われていない地域には対応できません。また、耐久年数が定められているダムやコンクリートの堤防などの構造物は、適切なタイミングで補修をしていく必要があり、工事の最中に災害が発生する可能性もあります。

そこでハード防災だけでは限界があることから、ソフト防災を組み合わせることで、減災を図ろうという考え方が広まってきたわけです。

新しい防災の研究 「コンパクトシティー」とは?

災害に備えて都市の形そのものを変えていこうという新しい防災アプローチも研究されています。そのひとつが、「コンパクトシティー」です。コンパクトな都市にすることで、コミュニティーの再生や利便性、公共サービスの質を高められるというのが、コンパクトシティーのコンセプトです。

拡大する都市の未来に限界が見えてきた

コンパクトシティーが提唱されたもともとの背景には、街の郊外が発展することで街の中心部が空洞化するドーナツ化現象、空き家や空き地があちこちに増えていく都市のスポンジ化問題、少子高齢化の問題があります。

街が発展したことで周辺部に住宅街が広がった結果、移動手段としては自動車が主になっている地域もあります。ところが高齢化が進めば、「交通難民」と呼ばれるような運転が困難な高齢者も増加します。

都市のドーナツ化やスポンジ化が進行すれば生活レベルの低下に

またドーナツ化やスポンジ化が進行すれば、広い面積に少数の人間が暮らすことになります。そうなれば、水道や電気、ガスなどの公共サービスの維持コストが多くかかることになることは避けられません。

そこで将来にわたって、公共インフラ、医療や福祉、教育などの質を維持できる仕組みが求められるようになりました。その結果、集中的に人が居住する街を作り、効率的に公共サービスを提供するというコンパクトシティーが提唱されたのです。

防災観点から見たコンパクトシティー

コンパクトシティーの考え方が、よく聞かれるようになったのは、2011年の東日本大震災の後でしょう。東北地方太平洋沿岸の広い地域を地震や津波が襲ったことから、日本の防災を見つめ直す大きなきっかけとなり、コンパクトシティーが注目されるようになりました。

ハード防災のアプローチで、海沿い全域に防波堤を築くとするなら、膨大なコストがかかります。自然破壊、景観悪化なども問題となります。特に、海岸の生物には大きな影響を及ぼし、生物多様性に悪影響を与えるのは必至となるでしょう。

そこで東日本大震災後、海沿いの地帯は漁業などの仕事で活用し、人々が居住するのは安全な高台にコンパクトシティーを作って移住するという考え方が、マスコミなどでも取り上げられるようになりました。

国土交通省は近年、コンパクトシティーの考え方をさらに押し進め、コミュニティーバスや乗り合いタクシーなどの交通インフラの整備を加えた「コンパクト・プラス・ネットワーク」として政策を進めています。

リスクからの復旧に着目 「レジリエント・シティー」

コンパクトシティーとは別のアプローチの街づくりも提唱されています。それが、「レジリエント・シティー」です。「回復力がある」「柔軟でしなやか」の意味を持つレジリエントという言葉のとおり、「復興する力」を持つ街を目指したものです。

富山市や京都市もレジリエント・シティーとして歩みを始めた

2013年アメリカのロックフェラー財団は、世界中から100都市を「100のレジリエント・シティー」として選出し、レジリエントな街づくり実現のための支援を始めました。日本で初めて選出された富山市は、2016年にレジリエント・シティサミットを開催しています。

同じく選出された京都市も2019年「京都市レジリエンス戦略」を策定しました。そこでは行政の取り組みとして「行政分野を超えた政策の融合/市民、地域、企業、大学、NPO等との協働/イノベーション/想定外の克服/ピンチをチャンスに変える発想の逆転」の5項目を挙げています。

コロナ禍からの復興もレジリエントで

レジリエント・シティーが目指しているのは、自然災害への対策だけではありません。サイバー攻撃やテロ、社会インフラの老朽化、環境やエネルギー問題なども含めて、さまざまなものをリスクと認識し、発生した問題に対し可能な限り迅速に復旧しようとしています。

現在(2020年11月)新型コロナウイルス感染症の拡大により、全世界が混乱に陥っていますが、コロナ禍から復興し、新しい日常、ニューノーマルを実現しやすい環境を作るためにも、レジリエントという視点からのアプローチも重要といます。

『防災、減災、都市計画』を学べる大学や学科

防災、減災、都市計画の研究は、工学部(工学科)、建築学部(建築学科)などが主になります。防災は、さまざまな分野にまたがるため、測量学、水理学、材料工学、災害地形学など、多くの知識を学ぶ必要があります。

東北大学(工学部 建築・社会環境工学)、神戸学院大学(現代社会学部 社会防災学科)、常葉大学大学院(環境防災研究科)のように、防災面からの街づくりを研究対象としている学部学科もあります。また、学部を横断する組織として防災・減災・復興学研究所を設けている関東学院大学、防災研究所を設ける京都大学などでは、さらに深く防災について学ぶことができるでしょう。

サイバー攻撃やサイバーテロから守るにはITセキュリティーの知識も必須です。新型コロナウイルス感染症のようなパンデミック(世界的大流行)に対応するには、医療面での知識やノウハウも必要でしょう。

街づくり、都市計画は、未来の社会を作ることにほかなりません。その街の文化や歴史を踏まえて、そこに暮らす人々がどのような社会生活を築いていくのかというビジョンも必要です。さまざまな分野を理解し、俯瞰(ふかん)した視点を持って、人々の生活をいかにして守るかを考える必要があるといえるでしょう。

サイバー攻撃から社会を守る【セキュリティ技術者】になりたい!大学進学? 独学? 資格試験?「サイバー攻撃により機密情報が流出」「マルウェア感染で工場の稼働が停止」「キャッシュレスサービスで不正送金被害」など、日々サイバー攻撃に...

参考

京都大学 防災研究所
https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/education/

関東学院大学 防災・減災・復興学研究所
https://univ.kanto-gakuin.ac.jp/dmi/index.php/ja/dmi.html