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国民年金は老後のためだけじゃない?! 大学生で保険料が納付できない時どうする?【国民年金の基礎知識】

成人年齢が引き下げられても、「20歳から」で変わらないものもあります。その一つが「国民年金」への加入です。国民年金というと、高齢者に給付されるイメージが強いかもしれませんが、実は若い世代にとっても大切な制度であることは意外と知られていません。今回は、若いからこそ知っておきたい国民年金の基礎知識と、学生が保険料納付を待ってもらえる「学生納付特例制度」について説明します。

国民年金は国の社会保障制度の一つ

まずは、国民年金とは何なのかを確認しておきましょう。国民年金は国の社会保障制度の一つで、高齢や病気、ケガなどによる生活の不安を金銭によって補う仕組みです。

特徴は「世代間扶養」です。自分の将来に向けて積み立てるのではなく、現役世代が納める保険料をもとに、老後世代など必要な人に年金を支給します。また、年金の資金には、現役世代が納めた保険料に加えて、国の税金も使われています。

日本国内に住む20歳~60歳未満は全員が加入する

「国民年金の保険料なんて払いたくない…」と思う人もひょっとしたらいるかもしれません。しかし、「国民年金法」という法律によって、日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は、基本的に全員が国民年金に加入することが義務付けられています。そして、国民年金の加入者は国民年金保険料を納める必要があります。

ただし、職場で厚生年金に加入している場合は、厚生年金を通じて国民年金保険料も納めているので、国民年金保険料を別途納める必要はありません。また、厚生年金加入者の配偶者で、加入者の扶養家族になっている場合も保険料を納める必要はありません。

国民年金の保険料は毎月1万6590円(2022年度)

では、国民年金の保険料はいくらでしょうか。2022年度(2022年4月~2023年3月まで)は毎月1万6590円、年間では19万9080円です。年齢や職業による保険料の差はありません。大学生であっても20歳以上は年間約20万円の保険料を納める必要があるのです。

なお、年金保険料は物価や賃金の変動によって毎年若干変動します。「上がる一方」ではなく、すでに公表されている2023年度の保険料は1カ月1万6520円と、2022年度より毎月70円安くなっています。

「老齢」「障害」「遺族」――国民年金は3種類

「年金」と聞くと、「高齢者に支給されるお金」というイメージがやはり強いかもしれません。確かに、国民年金には「老齢基礎年金」という65歳以降の人に支給する年金があります。しかし、それだけではありません。国民年金には、「老齢基礎年金」「障害基礎年金」「遺族年金」の3つの種類があり、それぞれ支給する金額や対象が異なります。

老後の生活を支える「老齢基礎年金」

老齢基礎年金は、65歳から亡くなるまで一生涯受け取ることができる年金です。金額は、満額で年間77万7800円です(2022年度の場合)。ひと月あたりでは、6万4817円になります。

ちなみに、厚生年金に加入している場合は納めた保険料に応じて「老齢厚生年金」も給付されます。会社員で老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を給付される場合は、一般的に国民年金(老齢基礎年金)だけよりも多い金額を受け取ることができます。

ケガや病気で生活に支障がある人のための「障害基礎年金」

大きなケガや重大な病気による障害で、一人では日常生活が送れなかったり、送るのが大変だったりする人に支給されるのが「障害基礎年金」です。金額は障害の程度によって異なります。

  • 障害の程度1級(他人の介助を受けなければ日常生活を送ることができないほどの障害)の場合 年間97万2250円(2022年度)
  • 障害の程度2級(日常生活はなんとか送れるが、労働によって収入を得るのは難しいほどの障害)の場合 年間77万7800円(2022年度)。

配偶者が亡くなった人のための「遺族基礎年金」

亡くなった夫または妻の収入で暮らしていた、子供のいる配偶者(または子供)に支給されるのが「遺族基礎年金」です。細かい条件はここでは説明しませんが、遺族基礎年金は子供がいない場合は支給されません。子供が一人の場合の年金額は100万1600円(2022年度)で、子供の人数が増えると金額が加算されます。

なお、障害年金、遺族年金についても、厚生年金に加入していた場合は別途「障害厚生年金」や「遺族厚生年金」が支給されます。支給対象や支給の条件は、障害基礎年金や遺族基礎年金とは異なります。

<20歳になったら国民年金「国民年金制度の内容やメリット編」/日本年金機構>

若い世代に特に大切な「障害基礎年金」

「老齢」「障害」「遺族」、国民年金から支給される3つの年金の中で、若い世代にとって最も関係が深いのが障害基礎年金です。老齢基礎年金の支給開始は原則65歳以上ですし、遺族基礎年金は結婚して子供がいて、なおかつ配偶者が亡くなっていなければ対象にはなりません。しかし、障害基礎年金は20歳以上で、該当する障害があれば年金が給付されるからです。

若くても重い病気になる人はいます。また、交通事故などさまざまな事故で障害を抱えるケースもあります。そうした状態になったときの生活の支えとして障害基礎年金は非常に重要な存在なのです。

20年間の受給総額は約1950万円(障害の程度が1級の場合)

障害基礎年金の金額を改めて確認しておきましょう。1級が年間97万2250円、2級が年間77万7800円です。障害の状況が変わらなければ支給は継続し、仮に障害の程度が1級で、20年間年金を受け取る場合、総額は97万2250円×20年=1944万5000円にもなります(2022年度の年金額で計算した場合)。

年齢が若いということは、これからの人生が長いということです。もちろん、障害基礎年金を受けるような状況にならないほうがよいのですが、万が一障害を抱えた場合には、障害基礎年金は生活の大きな支えになります。障害基礎年金を受給できるのとできないのでは、長い期間で大きな差が出てしまい、自身や家族の金銭的負担も大きく変わってくるから。

年金保険料が「未納」だと障害基礎年金を受け取れない!

国民年金は、基本的に保険料を納めた人やその親族だけが年金を受け取れる仕組みです。また、3種類の年金はそれぞれ年金を受け取るために必要な期間「受給資格期間」が定められています。

受給資格期間とは、保険料を納めた期間や加入者だった期間の合計で、例えば老齢基礎年金の受給資格期間は10年間(120カ月)です。この期間を下回ってしまうと、老齢基礎年金を1円も受け取れません。

では、障害基礎年金の場合はどうでしょうか。老齢基礎年金のような長期の受給資格期間はありません。しかし、障害の原因となる病気やケガの初診日の前日時点で、「初診日が属する月の前々月までの直近1年間」に保険料の未納があると受給できなくなってしまいます。

つまり、仮に初診日が2024年6月の場合、2023年5月~2024年4月までの1年間に保険料の未納があると、障害基礎年金を受け取れなくなってしまうということです。冒頭で「国民年金の保険料を払いたくないと思う人」について触れましたが、払いたくないからといって未納のままでいると、自分自身が大きな不利益を被る可能性があるのです。

保険料納付が猶予される「学生納付特例制度」

ここまで見てきたように、若い世代にとっても国民年金制度は重要な意味があります。20歳になったら、年金保険料を支払うことが望ましいと言えます。とは言え、20代でまだ働いてもいない大学生には、毎年約20万円の保険料納付は簡単ではない場合が多いのではないでしょうか。

しかし、未納のまま放置していては万が一のときに障害基礎年金を受給できません。それだけではなく、将来、老齢基礎年金も受け取ることができないかもしれません。

では、どうすればよいのでしょうか。実は、国民年金の保険料を納めるのが難しい学生のために、学生専用の納付猶予制度である「学生納付特例制度」が用意されています。この制度を利用すると、年金保険料の納付を待ってもらうことが可能になり、その期間が「受給資格期間」に算入されるようになります。

利用の条件と申請の方法について

「学生納付特例制度」を利用できるのは、大学生や大学院生、短大生の他、高専生や専修学校などに在籍する学生に限られています。20歳以上であれば、高校生もこの制度の対象になります。

また、所得(収入から必要経費を引いた金額)の条件もあり、ざっくり言うとこの特例を受けようとする前年度の所得(収入から必要経費を引いた金額)が128万円以下であることが必要です。学生自身に扶養する家族がいたり、自分で社会保険料を支払っていたりする場合は金額が変わります。

具体的な手続きは、住んでいる場所の区役所・町村役場の国民年金担当窓口や地域の年金事務所などで行います。詳細は、下記サイトをご参照ください。

・国民年金保険料の学生納付特例制度/日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150514.html

猶予された保険料は、10年以内なら「追納」ができる

納付の猶予が認められた期間の年金保険料は、10年以内であれば後納が可能です。追納すると、その分、受け取れる老齢基礎年金の金額が増えることになります。

なお、猶予された月から数えて3年目以降になると、時間の経過に応じた「加算額」がかかります。加算額は1カ月あたり数十円~数百円で、経過する時間が長くなればなるほど増えていきます。大学生であれば、就職後には速やかに追納するほうがよいと言えるでしょう。

学生以外が利用できる「免除」と「納付猶予」の制度

学生以外で、国民年金保険料の納付が難しい場合は、所得などの条件に応じて、年金保険料の「免除」(全額免除または一部免除)や「納付猶予」の制度に申請することができます。「免除制度」「納付猶予制度」、そして「学生納付特例制度」の違いは下記のとおりです。

他制度と「学生納付特例制度」との違い

老齢基礎年金 障害基礎年金/遺族基礎年金
受給資格期間への算入 年金額への反映 受給資格期間への算入
未納 × × ×
学生納付特例 ×
免除※
納付猶予 ×

※「免除」の場合は、免除の割合によって「老齢基礎年金」の年金額に反映される金額が変わります。

まとめ

現在、高校生の人にとっては、国民年金保険料の納付も「学生納付特例」の申請もまだ少し先の話でしょう。ただ、20歳になって日本年金機構から「国民年金加入のお知らせ」が届いたときに、「学生だし、まだ払わなくてもいいや」とそのままにしておくのは危険です。

自分の未来のリスクを減らすために、頭の片隅でよいので、「20歳になって国民年金保険料の納付が難しい場合は、早めに学生納付特例の申請手続きをすること」を覚えておきましょう。