世界各地で研究が進められているAI(人工知能)。近年では社会のあらゆる場面で用いられるようになってきましたが、中には「え? そんなところにもAIを使っているの?」と驚くような活用法も存在します。今回は、そのような「変わったAI」を紹介します。
利用分野が広がるAIの世界
AI(人工知能)といえば「客観的、冷静な目でデータを分析するもの」「人間のように考える機械」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。あるいは、古いSF映画に出てくるような「人々の活動を全て監視し、管理する存在としてのAI」を思い浮かべるかもしれません。
確かにAIはそういう一面を持っており、世界中のビッグデータを元に、さまざまな計算や思考を行うことで、企業の経営方針や国の経営に役立つ情報を提供しているものも存在します。
しかし、AIが社会のいろいろなところに浸透するにつれ、「多くの人にとって役に立つAI」だけでなく、従来は想定すらされなかった形で活用される「変わったAI」も増えているのです。
お店ごとに違うラーメンを見分けるAI
濃厚なスープと類を見ないボリュームで有名な「ラーメン二郎」という外食チェーン店をご存知でしょうか。日本各地に展開しているこの店はラーメンファンの間でも高く評価されており、ラーメン二郎の味をこよなく愛するファンは「ジロリアン」と呼ばれています。
ラーメン二郎がこれほどまでに高い人気を持っている理由のひとつとして、「ラーメン二郎特有のおいしさを保ちながらも、店舗ごとにスープや麺の太さ、具の品質が異なる」という点が挙げられます。これにより、同じチェーン店であっても、「地元の二郎と他店の二郎を食べ比べる」といった楽しみかたが可能になるわけです。
しかし、店ごとの違いを見分けるのは、ジロリアンではない一般の人にはとても難しいことです。そこで作られたのが、二郎のラーメンの写真を送ると、どの店舗で作られたものかを教えてくれるAIである「jirou_deep」でした。
このAIは、Twitterでラーメン二郎の画像をリプライするだけで、どの店のラーメンなのかを判定してくれるというツールであり、誰でも使える点が魅力です。Twitterでの記載によると2019年の段階で正答率98.94%のモデルを使っているということなので、すでに相当高い精度に達しているといえるでしょう。
・jirou_deep
https://twitter.com/jirou_deep
ちなみにjirou_deep の開発者のインタビューが下記のページに掲載されていますが、このAIで培った技術はブランド商品の偽物を検知するAIにも応用されているようです。確かに偽物が出回りやすいブランド品ではささいな違いを見分ける目利きの力が必要かもしれません。
・「ラーメン二郎」が偽物検知AIに一役!? あの「全店分類」技術が…
https://withnews.jp/article/f0190324004qq000000000000000W0c010701qq000018867A
人と人とのコミュニケーションを広げるAI
現在、インターネットの翻訳サイトを使えば「日本語から英語」「英語から日本語」というように、異なる言語に翻訳できます。しかし、AIが翻訳できるのは、外国語だけではありません。近年では、ちょっと変わったものの翻訳(?)に使われているAIも登場しています。
赤ちゃんの泣き声から、泣いている理由を教えてくれるAI
人間の赤ちゃんは、おなかが空いたりおむつを汚したり、あるいは眠くなったり、誰かに甘えたいときなどに泣きます。そのため、赤ちゃんは「泣くのが仕事」といわれているほどです。
しかし、子育てをする親にとっては、「どうして泣いているのかわからない」ために、対処のしようがないという場面も少なくありません。そんなときに役立つのが、「パパっと育児@赤ちゃん手帳」というスマホアプリです。このアプリを使えば、AIが泣き声を分析し、赤ちゃんが泣いている理由を教えてくれるのです。
このパパっと育児@赤ちゃん手帳は、IoT・ICT技術で育児を支援する「ベビーテック」に取り組んだ製品やサービスの中で、格別優れたものを表彰する「BABY TECH AWARD JAPAN 2019」の健康部門で大賞を受賞しています。
・パパっと育児@赤ちゃん手帳
http://papaikuji.info/
・赤ちゃんが泣いてる理由、親よりAIのほうがよくわかるってすごいですね
https://ascii.jp/elem/000/004/043/4043597/
方言→共通語への翻訳もAIに
日本の方言のなかでも、青森県で使われている津軽弁は、外部の人からは理解しにくいものとされています。方言はその地域の豊かな文化ではありますが、特に困るのが医療や介護の現場。そのような場所では、患者が話す病気の症状が県外出身の医師に理解できなかったりするケースもあるそうです。
そこで弘前大学では、AIを使って津軽弁を共通語に翻訳するためのプロジェクトを開始。現在、そのための音声サンプルを収集しているところです。これが実現できれば、医療や介護はもちろん、コールセンター、ボランティアなど、県外の人とのコミュニケーションがスムーズに進むかもしれません。
・「弘大×AI×津軽弁プロジェクト」の開始について
https://www.hirosaki-u.ac.jp/45240.html
<「津軽弁」をAIで文字化に成功!標準語自動翻訳を目指す初の挑戦!>
暴言、悪口、罵詈雑言を、ユーモアたっぷりの良い言葉に変換
SNSなどに罵詈(ばり)雑言、悪口を書き込む人がいますが、それらの行為は人間関係を悪化させるだけで、決して褒められるものではありません。そこで開発されたのが、悪い言葉を良い言葉に変換してくれるネガポジ変換システム「CoCo-WA」です。
・ネガポジ変換システム「CoCo-WA」
http://socialhealth.co.jp/coco-ship/coco-wa/
<ネガポジ変換システム『CoCo-WA』紹介ムービー>
これを使うと、次のような形で「悪い言葉」をユーモアたっぷりな「良い言葉」に変換してくれます。
- 『空気読め』→『私を成長させてくれるとっても素敵な刺激をありがとうございます!』
- 『うざい』→『私とは別世界の生き様見せてくれてさんきゅー♡』
イライラしているとき、SNSに悪い言葉を書き込む前に、AIに自分の言葉を良い言葉に変換してもらうと、一度気持ちが落ち着くのではないでしょうか。
動物との共存に役立つAI
犬猫などのペットはもちろん、牛や豚などの家畜は、人類にとってかけがえのないパートナーといえます。もしも彼らと言葉を交わし、今の機嫌や体調をたずねることができたら、人類と動物の絆はより深まることでしょう。近い将来、そんな夢物語をAIが実現してくれるかもしれません。
ネコの鳴き声を人間の言葉に翻訳?
「ペットと会話したい」というのは動物好きの永遠の夢といえますが、それをかなえるのが「にゃんトーク」というスマホアプリです。このアプリは、「にゃー、にゃー」と鳴くネコの言葉をAIが解析し、人間の言葉に翻訳してくれます。
YouTubeでも、 飼い猫がまとわりついてくるときに何と言っているのか、野良猫同士が喧嘩(けんか)をしているときに何と言っているのかなどを、にゃんトークで人間の言葉に翻訳した動画がいくつもアップされているので、一度ご覧ください。
この技術が広がれば、イヌやハムスターなど、他の動物の言葉を翻訳してくれるAIも誕生するかもしれません。
<話題の猫語翻訳アプリを使ってみたら、猫の本音がヤバすぎた笑>
<野良猫のガチ喧嘩のにゃんトーク猫語翻訳に挑んでみた>
牛の出産を助けてくれるAI
たくさんの乳牛を飼育している牧場では、たびたび牛の出産が発生します。しかし、産気づくタイミングは突然訪れるものであり、「この日に出産する」と確定できるものではありません。
また、産気づいたり、破水したときにも、人間であれば「産まれそう」と言葉で伝えることができますが、しゃべることのできない牛には無理な話。そのため、牧場によっては昼夜を問わず飼養者が見回って、分娩(ぶんべん)の兆候が出ていないかを確認しているところもあります。これは、飼養者にはかなり負担となる仕事でした。
この問題を解決すべく、北里大学獣医学部とノーリツプレシジョンが開発したのが、AIで分娩予兆を検知する「分娩検知システム(牛わか)」でした。これは、画像認識AIを用いて牛の行動を分析し、分娩前の特徴的な動きを検知したら、飼養者に自動的に通知して対処を促すというものです。
・北里大学獣医学部とノーリツプレシジョン株式会社が『画像認識AIで牛の分娩兆候を検出するシステム』を開発
https://www.u-presscenter.jp/article/post-45738.html
このようなAIは、世話をする人間の負担を軽減するのはもちろんですが、牛の生命を守ることにもつながります。また、言葉の話せない動物の行動の分析から意図を理解することは、動物と共存にもつながるものといえます。
人間と仲良く対戦するAI
「人間対AI」というとチェスや将棋、囲碁のように「AIと人間、どちらが強いのか」という点に注目されがちです。しかし、AIの中には人間と知能やテクニックを競い合うのではなく、仲良くなるために対戦するAIも存在します。
人間の卓球能力を育てるAI
卓球は世界最速の球技とも呼ばれており、スマッシュ時の初速は時速493km(ギネス記録)にも達します。プロが行う卓球は、そのようにスピーディーな環境で勝敗を決する真剣勝負の世界ですが、いわゆる温泉卓球は、観光客が浴衣を着てゆるい球を打ち合い、ラリーを続けることを楽しむゲームです。
これをAIで実現したといえるのが、オムロンの卓球ロボット「フォルフェウス」です。このロボットに搭載されたAIは、勝ち負けではなく、対戦相手である人間にとって「打ちやすい球」を返す機能を備えているため、楽しくラリーを続けることで人間である対戦相手のモチベーションを高めつつ、卓球の力を上達させるコーチング機能を備えています。
・オムロン、「CES2020」に出展 第6世代卓球ロボット「フォルフェウス」世界初登場!
https://www.omron.com/jp/ja/news/2019/12/c1210-1.html
<オムロンの卓球ロボ「フォルフェウス」、水谷隼選手と対戦>
変わったAIを生み出すのは若い研究者の斬新な発想力
このように、従来にはなかったような新しいAIの活用法が増えてきました。このような変わったAIを生み出すのは奇抜なアイデアが重要。それには若い研究者の斬新な発想力が欠かせないといえるでしょう。
「AI」について学べる大学の学部、学科
AIの研究は基本的には理工学部で行われます。しかし今回紹介したようなちょっと変わったAIを生み出すには、AIに特化した研究ばかりではなく、他の分野に関する研究を進める過程や、あるいは日常生活で、「ここにAIを活用したら、何かの役に立つかも」という思いつきが重要になります。つまり、AIとは無関係な学部に進んだとしても、誰でも新しいAIの活用法を生み出す可能性を持っているのです。
さらに、近年ではGoogleやYahooなどの大手企業が、個人や企業に対して高度なAIが活用可能な開発環境を提供する「AIプラットホーム」も普及し始めています。もしも今後の学生生活や日常生活の中で、「こんなAIがあったら便利だな」と思ったら、開発に取り組んでみてはいかがでしょうか。