2022年のモバイル通信は、4Gから5Gへの移行中というところですが、すでにその次の6G時代への構想が議論されはじめています。6Gは、5Gを超えることから「Beyond 5G」とも呼ばれています。これが普及するのは2030年前後とされ、そう遠くない未来のモバイル通信で実現されるであろう技術といえます。今回は、「Society 5.0」で使われる基盤インフラとして期待されているBeyond 5Gについて解説します。
モバイル通信技術は常に先行して規格が進む
移動体向けのモバイル通信は、アナログ通信であった第1世代を「1G」として、現在の5Gまで急速に進化してきました。5Gの「G」はGeneration(世代)を略したもので、第1世代の1Gから数えて5番目にあたることから、「第5世代移動通信システム」と呼んでいます。
そして、この5Gの次に現れる規格のことを「Beyond 5G」や「6G」などと呼びます。順番に従えば6Gになりそうですが、実際に「6G」と呼ばれるようになるかは不明瞭なために、「Beyond 5G」と総称しているのです。ほかにも「ポスト5G」などとも呼ばれています。いずれにしても、次世代のモバイル通信技術のことを表現した用語です。
ちなみに5Gは過去に「Beyond 3/4G」と呼ばれていた経緯があります。
Society 5.0にBeyond 5Gが求められるわけ
現在普及中の5Gでも通信の性能は上がっていっていますが、Society5.0が目指しているのは、現実のフィジカル空間とサイバー空間を一体化させるという世界で、これを実現させるにはもっと情報量の濃い高速通信が必要になってくるのです。
今でもビデオ通話やオンラインミーティングの経験していることと思いますが、まだ参加者同士が同じ場所を共有しているという一体感までは得られないと思います。これが、現実同様の一体感を抱いたり、フィジカル空間でのトラブルなどで使えなくてもサイバー空間のみで同じように対応できるといった未来を想定しています。このためには、より大量のデータ通信を瞬間的に遅延なく行うことや、現実そっくりのサイバー空間を用意することが必要になってくるのです。
「Beyond 5G」は5Gをベースに進め2030年代に普及する
5Gの全国的な普及も途中の状況なのに、次の通信規格の話をするのは気が早すぎると思うかも知れませんが、5Gの技術開発は2014年ごろにはすでに始まっていました。その普及期が2022年からですので、Beyond 5Gの動きについても時期的に早すぎることはありません。
すでに使われている5Gの技術としては、主に超高速、低遅延、同時接続数といった性能が、現在主流の4G LTEから大きく改善されています。これに加えて、ローカル5Gにて活用することで、安全性や安定性、柔軟性も持たせることも可能です。これらは集合住宅の回線やオフィス、大規模な建設現場などで導入されつつあります。また、これまで通信ができなかった機器(IoT機器)がインターネットに繋がる契機となりました。
Beyond 5Gでは、これをより強く推し進めていくことが基本になっています。総務省が2020年6月に「Beyond 5G推進戦略」をとりまとめ、2030年代にBeyond 5Gの普及を見据えることで、方向性が決まり大きく進むことになりました。そこで語られているのは、5G世代と比べて、「10倍から100倍の大容量」「1/10の低遅延」「10倍の多数同時接続」「1/100の低消費電力」という通信能力のアップです。
さらにAIの活用も進み、「AI自身が学習することで通信精度を高めていく」といったことができるでしょう。例えば、AIが最適な通信経路や移動予測などを自分で判断してもっとも良好と思われる通信をすることができ、レスポンスの向上はもとより、トラブル時も止まらない、安全で信頼性が高い通信ができるようになるのです。
・総務省「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000364.html
大学でも進むBeyond 5Gの研究
現時点で使われている5Gも、すべて5Gに移行したというわけではありません。まだ4Gの設備を活用(5Gと4Gを併用する形)していて、すべての設備が5G専用にはなっていない仮の5Gといえる状態です。ただ一部では、4Gの技術を使わない5G SA(スタンドアローン)にてネットワークスライシングの技術が使われてはじめています。
ネットワークスライシングは、実際のスイッチやケーブルといった機材を使わずに、ソフトウェア内で作られた仮想的なネットワークで仮想的にスライシング(薄切り)することで、ライブ配信やロボット操作といった異なる要求のサービスに応じて最適化する技術です。この技術の研究開発は、東京大学工学部とNECが開設した「Beyond 5G価値共創社会連携講座」の中でも、時間的・空間的に周波数の効率的利用を目指すダイナミック時空間スライシング技術の開発として行われています。
AIなどの技術革新もあわせて進化するのがポイント
こういった通信技術が進化していくこととあわせて、ポイントとなる技術革新が起こることにも注目です。5Gでも使われている、現実世界そっくりの仮想空間をデータで再現するデジタルツイン、仮想空間を表示させて見せるVRゴーグルやARグラスの小型化、さまざまな種類のデータを取得するセンシング技術なども大幅に精度が高くなり、AIも同時に活用される世界が隅々まで広がるということです。5Gでも研究が進んでいるところですが、単純にスマホの通信速度が上がるというだけではない部分に注目してください。デジタルツイン、XRインターフェイス、センシング技術に関しては、これまでの記事にて触れていますので、興味がある方は参考にしてみてください。
<NICT「Beyond5Gの実現をリードする最先端の研究開発」>
Beyond 5Gにそれらの新しいテクノロジーを組み合わせて活用することによって、遠くにあるモノがあたかも身近にテレポーテーションしてきたかのように、身近に触れ感じることができるようになる世界が考えられます。まるでSFアニメのように身体や脳の能力が拡張され使えるようにもなるでしょう。ビッグデータはあらゆる場所で瞬時に取り込まれ、個人に最適化された情報が提供されるでしょう。
デジタルツインが進化し現実のような仮想空間が現れる
センシング技術もさらに進化し、5G世代でも使われていたデジタルツインの技術も進化していきます。細部にわたりデジタルデータとなって、さまざまな場面で現実と変わらない仮想空間が扱われるようになるでしょう。こういったデータは、ロボットと人間が共存するためにも役立てられます。
たとえば、2022年5月に行われたGoogleのこれからを紹介するイベント「Google I/O 2022」では、Googleマップに追加される「Immersive(没入感のある) View」について紹介がありました。マップデータとストリートビュー、航空写真を合成し、上空からの視点で架空の景色を生みだしています。こういったような仮想空間がさらに進化し、実空間のように身近で扱われるようになることが想像できます。
<Immersive View for Google Maps Revealed>
また大阪大学とNECは「NEC Beyond 5G協働研究所」を設置し、Beyond 5GとAI技術を活用して、デジタルツインを発展させた技術の開発をしています。AIの認識には誤差があり、実世界は常に変化し続けているので、確率的に推定し未来を予測する「確率的デジタルツイン」を提唱し、デジタルツインを活用した建築・都市デザインの研究やシステム制御技術の研究を行っていくようです。
超高速大容量通信にはミリ波から上の周波数が使われる
5Gの10倍から100倍の超高速大容量通信では、現在使われている周波数より高い周波数が使われることになります。5Gでも使われている27G~29.5GHz帯(3G~30GHz辺りまでは実際にはマイクロ波になります)をミリ波として使いますが、これよりも高い30G~300GHz帯がSub THz(テラヘルツ)波帯として活用が考えられています。なお、このミリ波のさらに上は遠赤外線と赤外線になっていて、可視光線に繋がっていき、この光を使った通信も研究されています。
至近距離のあらゆる場所にアクセスポイントができる
こういった高周波数帯は、今後のフロンティア領域として広い周波数幅を確保して通信ができ、高速で大容量の通信が可能になることが期待されています。ただし、光に近い性質を持ち障害物の遮蔽(しゃへい)に対して弱くなるため、至近距離に多数のアクセスポイントを設置し、連携して通信することが求められるようになるでしょう。また、現在Wi-Fiでも使われているテクノロジーである、複数のアンテナを束ねて効率よく通信するMIMO技術を進化させ、広域で利用できるようになっていきます。市街地やビル内などで、信号機や街頭、看板、壁内や天井などあらゆるところにアクセスポイントが設置され、光通信でつながって連携して通信することが予想されます。
Sub THz波帯は、100G~300GHzの利用が想定されています。MIMOの技術を使いやすい「アクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナ」を使い、周波数利用効率をさらに高めていきます。これは5Gでも使われている技術の延長になりますが、平面アンテナと半導体のIC(集積回路)を一体に形成する高周波モジュールが実装され「フェーズド・アレイ・アンテナ」モジュール(PAAM)として使われます。
2021年に東京工業大学では、THz波帯(200GHz)通信が可能なアクティブ・フェーズド・アレイ無線機を世界で初めてComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)集積回路を使って実現させています。このモジュール単位でさらに進化していくでしょう。
<フジクラ 28GHz帯 ミリ波無線通信モジュール>
複数バンドの無線通信制御にはAIもフル活用される
Beyond 5Gでは、こういった30GHz以上のハイバンド(高周波数)と5Gでも使われている6GHz未満の「Sub6」を含むローバンド(低周波数)も、広いエリアを網羅するために組み合わせて通信します。通信基地局やアクセスポイントの設置場所の設計や無線通信制御にはAIも活用され、通信が最適化されます。AIの進化と無線通信の技術進歩は、相互に高め合っていく進化が期待されています。
その先の将来には、ギガヘルツ(GHz)より上のテラヘルツ(THz)帯の活用も見据えた研究が盛んになってきています。たとえば、東北大学は情報通信研究機構(NICT)、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、高輝度光科学研究センター、信越化学工業と共同で、炭素原子1個の厚みでハニカム(ハチの巣)状に結びついたグラフェンと呼ぶシートを使い、THz帯で動作するグラフェントランジスタの製造コストを下げる研究に成功しています。ミリ波までではGaN(窒化ガリウム)やGaAs(ヒ化ガリウム、ガリウム砒素)、Si(シリコン、ケイ素)といった物質が使われていますが、THz帯では回路やセンサーにグラフェントランジスタが使われることになるでしょう。
<東北大学 電気通信研究所「Beyond 5G, 6G に向けたグラフェンTHzデバイスの研究動向」>
「Beyond 5G」を学べる大学の学部、学科
Beyond 5Gは、ネットワーク通信技術関連になりますので、工学部で通信工学や情報システム、情報ネットワーク、AIといった分野を目指すとよいでしょう。ロボット工学やIoTなど、モバイル通信やネットワーク技術を使った実験や実習があるはずですので、学べる分野は広いといえます。
モバイル通信全般、コンピュータ(ICT)関連、ゲーム、動画配信、自動車、交通インフラ、物流運輸、ロボット技術、リアルショップ、ネットショップ、工場や事業所、ビル管理、観光、スポーツ観戦、ライブコンサート、宇宙開発、軍事利用など。