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【次世代半導体】最先端の半導体競争に日本も参戦! 高速化と省電力を目指してしのぎを削る

ICTやIoTなどに使われるデジタル機器を構成する中心部材として使われている半導体は、世界的にも枯渇状態が続いています。時代とともに微細化、集積化が進んでいる最先端のプロセッサーは、「次世代半導体」と呼ばれ注目が高まっています。今回は「次世代半導体」について解説します。

半導体は進化を続けている先端デバイス

ある条件により電気を通したり通さなかったりする半導体は、デジタル機器が使われるようになったことから急速に進化を続け、ICT機器の恩恵を受ける現代の生活になくてはならないパーツとなっています。そもそも半導体とは何なのか、近年の半導体について知りたい場合には以前の記事にまとめていますので、そちらを参照してください。

今【半導体】が熱い!世界中で枯渇するほど需要が高まる半導体の未来現在、「半導体」にかつてないほど熱い視線が注がれています。半導体は、ICT機器を構成する中心部材にも使われていますので、世界レベルで見る...

半導体は、さらに進化を続けている最中にあり、研究から素材の入手、実際に製品化に至るまでを各国の企業が競いあっています。今後より高速な計算をするスーパーコンピューターやAIの開発、より効率のよい電力コントロールの開発などで大幅な進化をもたらす、これから製品化されるであろう近未来の半導体を「次世代半導体」と呼んでいます。

ロジック半導体は集積化が進化の歴史

次世代半導体で注目される技術として挙げられるのは、さらなる集積化と微細化です。主に演算に使われる半導体は「ロジック半導体」と呼ばれますが、これらは回路を構成する線の幅が狭いほど密度の高い半導体を作れます。

これによって、高速な演算ができ、消費電力を抑えられるようになります。簡単にいえば、「回路内部の線の幅が狭ければ狭いほど、性能が高まる」と理解してよいでしょう。

この幅はトランジスタのゲート長となるテクノロジーノードで表現され、現時点では3nm(ナノメートル)が最小です。これはプロセスルールとも呼ばれ、「3nmプロセス(ルール)の半導体」とも呼ばれます。今後すぐに最新のコンピューターのCPUやGPU、スマホのチップなどに導入され、手元に届くことになるでしょう。

<What is wrong with 5nm, 3nm, 1nm.. CPU Technology Nodes explained(日本語翻訳字幕あり)>

2nmプロセスの製品化を日本企業も目指す!

次世代半導体としてさらに高密度な「2nm」プロセスを製品化する動きはすでに始まっています。2nmプロセスの半導体の試作には2021年に米IBM社がすでに成功しています。2nmというと、ウイルスよりも小さく、DNAの直径がほぼ2nmという微細なサイズになります。

<IBM Unveils World’s First 2 Nanometer Chip Technology(日本語翻訳字幕あり)>

この3nm以降の次世代半導体開発に日本企業勢が割って入ることが、2022年11月に発表されました。「Rapidus(ラピダス)」という新会社を日本企業が合同出資で設立して、先に2nmプロセス半導体開発に成功したIBMと協力しながら、次世代半導体の技術開発と日本国内に新たな製造プロセスの量産技術を確立するというものです。出資企業はキオクシア(東芝の半導体メモリ事業部門を分社化し設立された会社)、ソニー、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、日本電気(NEC)、日本電信電話(NTT)、三菱UFJ銀行と、日本を代表する企業が名を連ねています。

ロジック半導体を微細化すると何がすごいのか?

かつては、CPUやメモリーを含め先端半導体開発と生産に日本企業が活躍していましたが、近年の10年ほどは、多くが米国での開発と、台湾TSMC社に頼ることになってしまっていました。次世代半導体の普及フェーズでは、日本勢の巻き返しが大いに期待できそうです。

すでに2nmプロセスを実現させたIBMによれば、2020年頃に登場した7nmプロセスと比べると、2nmプロセスでは演算能力を45%も向上させつつ、消費電力は75%削減する効果があるとしています。これはAIの演算などに使われるような、たくさんのコンピューターを使って膨大な計算をする際には大きな差となります。

特に消費電力の抑制は重要です。CO2削減という命題だけでなく、「同じ計算をより少ない電力で実現する」という目的もあるからです。計算能力に対して消費電力が大き過ぎると、そもそもデータセンターやスーパーコンピューターを動かすための電力確保が難しいという課題があるのです。

つまり、低消費電力で計算能力の高い2nmプロセスより微細化したロジック半導体は、たとえ高価であっても世界中のコンピューターを活用する人々が欲しがっている夢のデバイスなのだといえるでしょう。

・NEDO による「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業、先端半導体製造技術の 開発(委託)」の採択について/Rapidus
https://www.rapidus.inc/news_topics/news-info/press1/

<NTT・トヨタ・ソニーなどが出資 次世代半導体新会社「ラピダス」記者会見/テレビ東京>

<トヨタ・NTTも出資 、次世代半導体の新会社「ラピダス」を解説/日本経済新聞>

微細化以外にも研究する課題は多い

ただし、次世代半導体の開発は簡単なことではありません。半導体微細化は、2nmプロセスにて物理的な限界を迎えるという説がありました。一方、トランジスタの構造や素材の開発によっては、1nm以下でも引き続き微細化が可能になるという研究もされています。1nmは10Å(オングストローム)となるので、そうなるとオングストローム世代のロジック半導体ができるかも知れません。

3Dで立体的に配置して集積度を上げる

また、単に平面(2D)の密度を上げるだけではなく、立体(3D)に配置して微細化するという研究もさかんに行われています。このような技術は「3D ICパッケージング」と呼ばれています。もちろん先述の国内企業Rapidusもこの開発を行っていくはずです。また、台湾TSMCは、日本に3D IC研究センターを開設しています。

ここまでで見たような次世代半導体は、2nmプロセスを超える細かさになることから「Beyond 2nm」とも呼ばれています。これからのロジック半導体は、この分野の研究でしのぎを削った競争に入っていくことになります。

化合物半導体を使って性能を上げる

半導体は微細化のほかに、素材を変えることで性能を上げる研究も進んでいます。ロジック半導体では主にシリコン(Si)が使われています。ほかに半導体としては、ゲルマニウムやセレンが使われますが、このような1種類の元素ではなく、異なる2種類以上の元素が結合してできる「化合物半導体」の活用も模索されています。

化合物半導体は電子の移動速度が速く信号処理に優れるなど、有用な特性が多くありますが、扱いが難しかったりコストに見合わなかったため、あまり使われてこなかったのです。

しかし近年では電力制御に使われるパワー半導体にて、窒化ガリウム(GaN)という化合物半導体がシリコンにかわって使われるようになっていて、小型でハイパワーなACアダプターなどに採用されています。また、窒化インジウムガリウム(InGaN)が青色LEDや青色レーザーとして活用されています。ロジック半導体はまだしばらくシリコンが使われていくと思われますが、性能が高い化合物半導体が使われる可能性はあるでしょう。

<持続可能社会に貢献するGaN/Siパワーデバイス​/名古屋工業大学>

次世代半導体により生活が変わっていく

次世代半導体の登場により、単純に演算の速度が速くなるだけでなく、省エネにもなり、スマホやノートパソコンのバッテリー寿命が延びたり、データセンターのCO2排出量を下げることにもなります。高速な演算は、クルマの自動運転では反応時間を短くでき、より自然でスムーズな自動運転ができるようにもなります。また、高性能なパワーデバイスは、直流と交流の変換でエネルギーロスを少なくできますので、省エネにつながります。

このように私たちの身近なところで、より快適になる変化が起こることでしょう。Society 5.0では、ビッグデータをAIによる高速演算で解析し、リアルな生活に恩恵をもたらすことを目指しています。高速演算が必須のデジタルツインもより身近になってくるでしょう。次世代半導体は、その実現に不可欠な重要なデバイスなのです。

・GaNが拓く未来―CO2削減を実現するキーデバイス―/環境省
https://youtu.be/zhPGSU8iyb0

政府としても「10年前に量産に至らなかった日本が改めて次世代半導体に参入するラストチャンス」と位置づけて、次世代半導体開発に力を入れていくことを基本方針としています。他と差別化ができるテクノロジーである半導体の重要性は、今後もより増していくことが予想されています。次世代半導体開発に限らず、先進半導体の製造を国内に回帰させる動きもありますので、半導体に精通した人材が必要とされていくでしょう。

・次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けて/経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/11/20221111004/20221111004-1.pdf

「次世代半導体」が学べる大学の学部、学科

半導体関連技術を学ぶのは、理系の工学部や理工学部で電気電子系を目指すことになります。

2022年4月に文部科学省が、次世代半導体の研究開発や人材育成に向けた戦略事業として、東京大学、東北大学、東京工業大学の採択を発表しています。事業期間は2021~2031年度までの11年間となっていますので、長期にわたって研究費などの支援が行われます。次世代半導体に関心を持つなら、ぜひ目指してみてください。

・東京大学:次世代X-nics半導体創生拠点形成事業に採択
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-04-14-002

・東京工業大学:「集積Green-niX研究・人材育成拠点」が文科省次世代X-nics拠点に採択
https://www.titech.ac.jp/news/2022/064017

・東北大学:「スピントロニクス融合半導体創出拠点」がスタート!
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/04/press2020422-01.html

・名古屋大学:省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発
https://www.ganpro.imass.nagoya-u.ac.jp/