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【水素】の活用で脱炭素社会の実現へ!大学でも産学連携で研究

石油資源の少ない日本がカーボンニュートラルと脱炭素社会を実現するには、さまざまなエネルギー活用を模索していく必要があります。その中でも有力視されているのが「水素」の活用です。今回は、水素社会へ向けた取り組みや、大学での研究について紹介します。

「水素」の力でカーボンニュートラルを

日本政府は、2050年までに「カーボンニュートラル」実現を目指し、二酸化炭素(CO2)を含めた温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標を掲げています。この切り札と考えられているのが、「水素」の活用です。

現時点では、国内の電力のほとんどを石油や石炭、液化天然ガス(LNG)を燃やすエネルギーでタービンを回し発電しています。

水力や地熱、太陽光、風力などの再生可能エネルギー比率は、徐々に増えてはいるとはいえ、再生可能エネルギー比率は2019年度の段階で18%にとどまり、決して高くはありません。また太陽光や風力による発電は、天候などの影響を受けて発電量が変動しやすいという課題も抱えています。

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空気を汚さず、無尽蔵なエネルギー源「水素」

そこで注目されているのが水素です。水素は身近な元素で、大半は海水に存在しています。枯渇が考えられる化石燃料とは異なり、地球上の水素はほぼ無尽蔵と考えてよいでしょう。

水(2H2O)に電気を流す電気分解により、酸素(O2)と水素(2H2)が発生します。逆に水素スタックにて酸素と水素を反応させると電気を生み出せます。発電時に出るのは水だけなので、大気汚染がなくとてもクリーンなのです。

<岩谷産業「イワタニが描く未来の水素エネルギー社会」>

日本原子力文化財団「電源別発受電電力量の推移」
https://www.ene100.jp/zumen/1-2-7

経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2020年度版」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/007/

クルマではすでに燃料電池車として実用化

先んじて水素を実用化しているものに自動車が挙げられます。これら水素をエネルギーとするクルマは、燃料電池車(FCV)と呼ばれ、水素スタック(発電装置のこと)で発電した電気をバッテリーに蓄え、電気モーターで走行しています。燃料電池車には、トヨタ自動車の「MIRAI」やホンダ(本田技研工業)の「クラリティ FUEL CELL」があります。

燃料の水素は高圧のタンクに圧縮して入れて利用します。水素を充塡(じゅうてん)できる水素ステーションは、約140カ所が開業(2020年末現在)しています。電気自動車(EV)への充電と異なり、ガソリンのように数分で充填できるのもメリットです。

自宅にある燃料電池車で、災害時の電気に活用

燃料電池車を自宅ガレージに置いておくことは、小さな発電所を自宅に持つことと同じです。災害時には電気を作り出すことも可能です。

同じような考え方で、小型の水素スタックを自宅やビルなどに置いて、電力をまかなうという考え方もあります。パナソニックは「純水素型燃料電池」の実証稼働をパナソニックセンター東京で始めています。

水素を直接燃やして走るクルマも開発

ほかにも、トヨタ自動車は、燃料電池車とは異なる、水素を燃焼させるエンジンで走行するクルマを開発し、今後量産することを発表しています。

そのエンジンには、ガソリン車の技術も使え、走行では微量のエンジンオイル燃焼分を除いて、二酸化炭素は排出されないというメリットがあります。すでに2021年5月には、この水素エンジンを搭載したクルマで24時間耐久レースに参戦して実際に走行させています。また三菱重工やマツダも異なるタイプの水素を使うエンジンを開発しています。

水素社会へ向けての課題

このようにすでに活用が始まっていますが、水素の利用を広く普及させるには、まだ超えるべき課題もいくつかあります。

現状では水素を作り出す費用が課題

現在、利用されている水素は、化石燃料(主に天然ガス)を高温で水蒸気と反応させたり、製鉄時などに高温で発生したものを利用しています。それは、水素を取り出すための費用が高いということでもあります。またカーボンフリーとうたいながら、水素の分離に化石燃料を燃やしている点も疑問視されています。

再生可能エネルギーで作る「グリーン水素」

これからは、化石燃料ではなく、再生可能エネルギーを使った水の電気分解などでCO2を排出せずに水素を大量に作る必要があります。これを「グリーン水素」と呼んでいます。

また電源開発(J-POWER)は、オーストラリアで大量に存在する、褐炭と呼ばれる石炭の一種から、水素を製造する装置を稼働させる動きも進みつつあります。カナダでは油田から直接水素を抽出し、二酸化炭素とメタンは地中に残すという技術が開発されフィールドテストを進めています。

これらの推進によって水素の抽出費用が格段に下がることも期待されています。このように、グリーン水素の製造は大きく動きだしている最中です。

水素や高圧タンクの規制改革も急がれる

水素は空気より軽く燃えやすいため、国内での貯蔵に関する規制があります。広く普及を加速させていくには、安全とてんびんにかけつつ改革していくことは急務と考えられます。

例えば、燃料電池車は、高圧ガス保安法(経済産業省)と道路運送車両法(国土交通省)で規制を受け、手続きが煩雑です。車載の高圧タンクは、定期的に検査が必要なうえ15年の充填可能期限があり、それ以降は利用できません。高圧タンクの載せ替えは現実的な価格ではないため、新車購入から15年で廃車にせざるを得ないでしょう。

そのためこのままでは、法人利用はともかく一般家庭には燃料電池車は普及しないと危惧されています。また、水素ステーションも「ビルの下への設置ができない、広い敷地面積が必要」とされています。

いずれにしても、水素社会への動きはようやく動きだしたところです。まだまだ技術革新によって使い方も変化することも考えられ、エネルギーの使い方が大きく変わる可能性も秘めています。

「水素社会、水素エネルギー」の研究に取り組む大学

水素エネルギーに関する研究はいろいろな大学が取り組んでいます。例えば、

など(順不同)が設置されているように、産学連携で研究している大学も増えてきています。

実際に水素が液体燃料として流通するときに付随する機器や、クルマや発電所などで実際に使用する機器では高度な技術が必要になり、今後も進化させていかなければならない分野です。

こういったテクノロジーを理工系で学んでおくのは意味のあることです。また、交通システムやインフラ整備の観点から知識をつけておくことも考えられるでしょう。

地球科学科のような、地球環境やエネルギーに関して学べる学科もあります。地球温暖化などの環境問題から関わりたいなら、環境学部という選択もあるでしょう。

<環境省「水素社会 実現にむけた取り組み」>