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化学で「おいしい」を作り出す!【食品科学】が導く新しいライフスタイルとは

高校卒業後に「食」や「調理」について学ぶ場としては、パティシエなどの調理師が指導してくれる専門学校を思い浮かべる人が多いかと思われます。しかし近年の大学では、食について科学的な研究を行う「食品科学」も扱われ始めています。この学問領域では、どのようなことを学ぶのでしょうか。

「食品科学」とは何か

衣食住のひとつであり、人々の生活に不可欠なものである「食」。これについて、科学的な観点から研究を進めるのが「食品科学」という学問領域です。食品科学は、分子美食学や食品工学など、さまざまな学問に枝分かれしています。

科学的観点から調理を研究する「分子美食学」

世の中に存在するありとあらゆるものは、原子とその集合体である分子によって構成されています。当然、私たちが食べている食品も、分子同士が組み合わさることでできあがっているのです。

この「食品の分子構造」を科学的に研究、観察し、素材ごとの最適な調理方法や加工方法を導き出そうとする学問が「分子美食学(分子ガストロノミー)」です。

分子美食学では、調理の際に生じる分子の変化を観察することによって、既存のレシピの問題点を改善し、料理のおいしさを向上させるだけでなく、芸術的な価値を高める研究も進めています。

食品の生産技術を向上させる「食品化学・工学」

全国のスーパーやコンビニでは、工場で加工されたソーセージやカット済みの野菜など、さまざまな食品が販売されています。それらの品質を維持しつつ、大量生産するために役立てられている学問が、「食品化学」と「食品工学」です。

食品科学の一つであり、食材の特徴や成分、化学的な反応について研究する食品化学では、おいしさを向上させる香料や着色料などの添加物の扱い方についても取り組んでいます。この研究によって、腐りやすい食材に対して適切な防腐剤を使用することが可能になるなどのメリットが生まれています。

そして、食品の生産を効率よく行うための技術などを研究しているのが、食品工学です。食材を劣化させずに調理と梱包(こんぽう)を終え、輸送するためには、食品工学の技術が不可欠です。

このほかにも食品科学の中には、食材の腐敗を防ぎつつ、品質向上のために発酵を有効活用する「食品微生物学」や、環境を考慮しつつ、食品に最適な包装を導き出す「包装食品工学」などが存在します。

「食」の常識を変えていく、最新テクノロジー

近年、最先端のテクノロジーが普及することによって、さまざまな業界でイノベーションが起こっていますが、これは食の分野でも同じです。従来は存在しなかったテクノロジーによって、私たちの食事はどのように変わっていくのでしょうか。

3Dプリンターが作り出す、本物そっくりの「人工肉」

豚肉や牛肉などに含まれるタンパク質や脂質は、私たちの体に必要な栄養素のひとつです。そのため、スーパーなどの食料品店には多くの肉が並べられています。

しかし、家畜を育てて食肉を生み出すまでには、水や飼料の用意だけでなく排せつ物の処理などが必要になります。そのため、家畜の生育環境によっては、少量のタンパク質を得るために、膨大なリソースを支払う可能性もあるのです。

この問題の解決策として注目を集めているのが、植物などを加工して作る「人工肉」です。人工肉(または培養肉)の技術は以前から存在していましたが、その味は通常の食肉よりも劣るものとされていました。

しかし、近年では筋肉繊維などの組織構造を解析し、3Dプリンターで正確に再現することによって、本物にも劣らない人工肉を生み出せるようになっています。

<【培養肉ステーキ】3Dプリンタでサシ入り和牛が誕生!【大阪大学 凸版印刷】>

このような加工技術が普及すれば、私たちも日常的に人工肉を口にする日が来るかもしれませんね。

お湯を注ぐだけで「どんぶり」ができあがる?

食品を遠くまで輸送することが可能な「冷凍食品」や、温めるだけで食べられる「フリーズドライ」などの食品加工技術は、年々進歩しています。

このフリーズドライ製品ですが、従来は「乾燥させた味噌(みそ)にお湯をかけて味噌汁を作る」というように、シンプルな構造のものが主流でした。

しかし近年では、お湯を注ぐだけで「かつ丼」や「エビの天丼」ができあがる製品も現れ始めています。このような技術が発展していけば、災害発生時であっても、普段の生活と変わることなくおいしいものが食べられるようになることでしょう。

<「アマノフーズ」フリーズドライ食品:親子丼>

AIが発見した、新しい「おいしさ」

ラーメンとプリンを同時に食べる人は、おそらくいないでしょう。しかし、味覚について学習した人工知能(AI)によると、この組み合わせは人間にとって「とてもおいしいもの」だそうです。

<ラーメンにプリン!? どうして美味しくなるのか?>

このように、将来的にはAIが料理のレシピを作り、それを調理ロボットが再現していく時代が来ることでしょう。しかし、食に関するすべての判断をAIにゆだねてしまうと、「人々が好んできた味」が大きく変わってしまう可能性もあります。そうすると、遠い未来には、味噌汁やカレーなどが「おいしくないもの」として扱われるかもしれません。

既存の料理を改善しつつ、新しい調理方法を導き出す食品科学には、食事の質を上げることだけでなく、過去の調理人が生み出してきた「おいしさ」を受け継いでいくためのバランス感覚が求められるのかもしれません。

「食品科学」について学べる大学の学部や学科

食品科学については、全国の農業大学や工学部、理工学部で扱われています。

農作や畜産について研究を進める東京農業大学では、食品の質を保ち、人々の健康を促進する「食品安全健康学科」や、世界的な視野で生産技術の改善に挑戦する「国際食料情報学部」のほかにも、食欲を誘う匂いを作り出す「食香粧化学科」などなど、食に関連した学部が多く設置されています。

近畿大学の生物理工学部、食品安全工学科では、食の安全性や機能性についての研究や、食品衛生管理システムの構築などに取り組んでいます。

また、立命館大学では食文化やフードマネジメント、フードテクノロジーを研究する「食マネジメント学部」が創設されています。

このように、さまざまな大学で研究が進んでいる「食」。すべての人々に必要な食事について興味がある方は、これらの大学を検討してみてはいかがでしょうか。

『食品科学』の活用が期待される分野

調理、生産、運送