研究テーマ

先進技術で変化し続ける【ゲームの世界】。VRやウエアラブルなどを活用した研究分野は?

娯楽として世界中の人々から愛されているゲーム。VR(仮想現実)やウエアラブルデバイスなどの最新テクノロジーを積極的に取り入れたり、各国で「eスポーツ」などの新しいムーブメントを興したりするなど、技術面、文化面で大きな影響をもたらしています。今回は、それらゲームに関連する、さまざまな技術が応用できる分野について紹介します。

ゲーム業界は、常に最新テクノロジーを武器に成長

家庭用テレビが普及した1960年代、アメリカ人の発明家ラルフ・ベア氏は、ふいに「テレビの画面を操作できる機械」というアイデアを思いつきました。その後の1972年、ベア氏が「ブラウンボックス」という試作機を経て完成させたのが、世界初の家庭用ゲーム機である「オデッセイ」でした。

この「テレビ」と「ゲーム」の融合により、ゲーム業界はかつてないムーブメントに突入しました。そして時代は流れ、パソコンやスマートフォン、各種IoT(モノのインターネット)機器が普及しはじめた現代では、あらゆるゲームがオンラインに対応しているといっても過言ではありません。

このようにゲームというジャンルは、テレビやインターネットなど、その時代における「新しいテクノロジー」に適応するたびに、大きな成長を遂げ続けています。

VR、AR、ウエラブルと 「eスポーツ」の融合

最近では、国内外で盛んに開催されているゲームイベント「eスポーツ」があります。その人気競技としてはFPS(主人公視点の3Dガンシューティングゲーム)や格闘ゲームが挙げられますが、パズルゲームやモータースポーツなどの世界大会もたびたび開催されています。

この「eスポーツ」の特徴は、選手が時間や場所を選ばずに参加できる点です。昨今のコロナ禍では、人と人との密集を避けるために、多くのスポーツ競技やイベントが中止に追い込まれています。しかし、選手や観客が自宅から参加できるeスポーツであれば、感染リスクを抑えながら開催できます。

ウエアラブル端末を活用した「eスポーツ」も

近い未来には「装着するデバイス」であるウエアラブル端末が普及するという予測もあります。今後、スマートグラスなどのウエアラブル端末がスマートフォンの代わりに用いられるようになったら、ウエアラブル専用のVR(仮想現実)やAR(拡張現実)のゲームも多数出てくることでしょう。

すでにウエアラブル端末を活用したeスポーツが誕生しています。ARヘッドセットを装着し、現実世界と仮想世界の両方を見ながらプレイするARスポーツ「HADO」もそのうちの一つです。フィールドの上で競技者が光線をぶつけ合うHADOは、バスケットボールやフットサルのような室内球技と同じ感覚で観戦することができます。

ARスポーツ「HADO」

教育や医療にも利用が広がるVR(仮想現実)

VRなどの技術は、ゲームだけではなく、教育や医療、身体トレーニングなどでも活用されています。そこではゲームで培ったノウハウも生かされています。

大学で検討、実施されている「VR講義」

現在(2020年10月)は、コロナ禍により通学が困難な状況とされています。そのなかで文部科学省が取り組んでいるのが、「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)」です。デジタルテクノロジーを用いて既存の授業体制の変革を試みるこの取り組みは、大学関係者や企業からアイデアを募りながら、人工知能による質疑応答や、VR、ARを用いた遠隔授業の実現を目指して、現在も進行中です。

この取り組みに先駆けて、VRによる遠隔授業を実施した大学があります。東京大学では「Zoom」「Google Meet」などのWeb会議ツールを用いた遠隔授業を開始していますが、2020年7月9日に、一部の授業で「Mozilla Hubs」と「VRChat」などのソーシャルVRサービスを用いた実験的講義を実施しました。

東京大学 雨宮研究室(ソーシャルVRサービスを用いた実験的講義)
https://amelab.vr.u-tokyo.ac.jp/

東京大学ではこのほかにも、仮想世界にキャンパスを構築し、VRでオープンキャンパスを行う「バーチャル東大」を実施しています。このようにVR上で行うオープンキャンパスとしては、早稲田大学の「VRキャンパスツアー」や近畿大学の「近畿大学VRschool」などが挙げられます。

医療トレーニングで活用される「VR医療シミュレーター」

VRが大いに利用されている分野として、医療が挙げられます。仮想空間で手術、実験を行う「VRシミュレーター」であれば、患者の健康被害などのリスクがない状態でさまざまなトレーニングを実施することができるからです。

名古屋大学医学部の学生や医療従事者向けの施設である「名古屋大学クリニカルシミュレーションセンター」では、VRシミュレーターを用いて内視鏡手術や血管内治療などのトレーニングを行うことができます。

また、このような専門施設にいかなくてもVRでさまざまな手術のトレーニングができるVR手術トレーニングシステム「Osso VR」も各国の医療従事者に活用されています。

このように世界中の医療現場でVRが活用されていることを受け、文部科学省は2020年に専修学校の実習でVR、ARを用いようとする「専修学校における先端技術利活用実証研究」を実施しています。

プレイヤーの96.4%が成長した「けん玉できた!VR」

VRで習得できる技術は、医療のように専門的なことだけではありません。東京大学先端科学技術研究センターの教授である稲見昌彦氏が技術顧問を務めるイマクリエイト株式会社は、けん玉の技術が身につく「けん玉できた!VR」を開発しています。

このけん玉トレーニングシステム「けん玉できた!VR」は、現実よりもスローな環境で玉と棒の動きを観察しつつ、プロの姿勢や動作を模倣することで、プレイヤーのけん玉技術向上を目指すVRシミュレーターです。

けん玉できた!VR

「けん玉できた!VR」を体験した1128人のうち、96.4%にあたる1087人が、けん玉さばきの技術向上に成功しています。その中には75歳の男性もいたのですが、「つばめがえし」や「サイドスパイク」の習得に成功しています。

ゲーム技術を応用する、さまざまな研究分野

活用を広げる「xR」

VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などはまとめて「xR(エックスアール、クロスリアリティ)」と呼ばれています。これらはゲームの世界だけでなく、製造業での機械操作の習得、医療での手術シミュレーション、観光でのバーチャル体験、不動産業でのバーチャルな内見(下見)、教育現場での仮想体験など、さまざまな分野での活用が始まっています。

ゲームの楽しさを科学的に研究する「ゲームサイエンス」

VRシミュレーターなどの例が示すように、ゲームは面白いだけでなく、技術を楽しみながら習得することができます。その楽しさの理由を研究し、理論化を試みることで、ゲームそのものの品質と社会的価値を高めようという学問が「ゲームサイエンス」です。

例えば、3Dアクションゲームで重要なポイントは、プレイヤーが操作する「プレイヤーキャラクター」の動作と「カメラワーク」です。
ゲーム内で、プレイヤーが関心を持ったオブジェクトに近づいたときに、プレイヤーキャラクターが止まりたい場所で止まってくれなかったり、カメラが関係のない部分をズームしてしまったりすると、ゲームに対する没入感が薄れてしまいます。

このような操作性の悪いゲームを遊んでいると、プレイヤーにストレスがたまってしまいますが、それとは逆にサウンドやグラフィックで感動したときには、プレイヤーは興奮をします。

そういったストレスや興奮を血流や脳波から計測し、科学的に理論化することができれば、ゲームに関するノウハウや知見が蓄積されていきます。

ゲームの楽しさを他業種に生かす「ゲーミフィケーション」

ゲームサイエンスによってゲームの魅力が研究されていくのと同時に、注目を集めている分野があります。それが、ゲームのエンターテインメント性を異なる業種に応用させて効率化を図る「ゲーミフィケーション」です。

幼い子どもに足し算や引き算を教えようとしても、なかなか理解してもらえません。しかし、おままごとやお店屋さんごっこをすれば、子供たちは楽しみながら計算力を身に着けることができます。

また、生活習慣病の患者に毎日の散歩を指導しても、モチベーションが持続しないかもしれません。しかし「Ingress」や「ポケモンGO」のような位置情報ゲームを提供できれば、運動に対する意欲は向上します。

このように、ゲームデザインの理論を他業種に応用させることにより、個人や組織のモチベーション、満足度の向上を目指すゲーミフィケーションは、さまざまな領域で注目を集めています。

ゲームの「楽しさ」でコミュニティーの発展を図るゲーミフィケーションと、ゲームの「楽しさ」を科学的に導き出すゲームサイエンス。この二つの研究が進んでいくことで、私たちが暮らす社会は大きな変化を迎えることになるかもしれません。

ゲーム関連の技術を学べる大学や学部

ゲーム開発者になるのであれば、プログラミングやゲームデザインについて基礎から教えてくれる専門学校への進学という道があります。大学でゲームに関連する技術や知識を学ぶには、どのような分野、研究があるのでしょうか。

VRなどのxRに取り組む学部としては、理工学部はもちろん、医学部、心理学部、芸術系学部などが挙げられます。

ゲームサイエンス

ゲームサイエンスを扱う学部としては、理工学部や工学部などが挙げられます。立命館大学の理工学部 知能エンターテインメント研究室では、人工知能(AI)などの研究によってゲーム内のNPCの挙動を改善し、ゲーム体験の品質を上げる研究に取り組んでいます。また、同研究室ではプレイヤーの身体的、精神的、社会的な健康向上を目指した「ウェルビーイング・ゲーム」の開発を行っています。

帝京大学 情報電子工学科で生体医工学やゲームサイエンスを研究している小川充洋研究室では、ゲームプレイ中の生体反応を計測することで「なにが楽しいのか、どこに面白さを感じるのか」といったことを科学的に分析しています。

ゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションに関してはメディア学部や人文社会科学研究科などが挙げられます。2019年、製薬会社であるアステラス製薬と横浜市立大学、東京藝術大学は「ゲーミフィケーションを用いた新たなデジタルヘルスケアソリューション創出」を目指し、「Health Mock Lab.」を発足しました。このHealth Mock Lab.は、「ビジネス」「医学」「ゲーム」の三つの視点から新しい事業創造に取り組む予定です。

『xR、ゲームサイエンス、ゲーミフィケーション』の活用が期待される分野

エンターテインメント産業、医療、教育、心理学、社会活動など