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医療にイノベーションを起こせ!【医工連携】で医学と工学のコラボを実現。大学やベンチャーも積極参加

医療分野では次々と新しい技術、製品が開発されています。そこでは、医学と工学の連携である「医工連携」が注目されています。これは、病院などの医療機関、医療機器メーカー、民間のものづくり企業(製造業)、大学や研究機関、自治体などが協力して、新しい医療機器、技術を生み出そうという取り組み。今回は、医工連携について解説します。

医学と工学の連携が求められる背景

「スマート医療」「バイオテクノロジー」「ロボット手術」「リモートによる遠隔診察や遠隔治療」「デジタル薬」など、医療のための新しいテクノロジーが次々と開発されています。そして、画期的な新しい技術やデバイスを活用した医療機器を生み出すには、医学、医療の分野と工学分野の密接な連携が欠かせません。

そのような背景から求められるようになってきたのが「医工連携」です。医工連携とは、医療、医学に関わる病院などの医療機関、ものづくりに関わる医療機器メーカーや製造業の会社、さらには大学や研究機関、自治体などが協力して、医療に関する機器の開発、新技術の開発、新しい事業、イノベーションの創出などに取り組むことです。この両者の連携を強化することで、医療技術の開発にイノベーションを起こそうというわけです。

医工連携の課題

医学と工学の連携――。
言葉は簡単ですが、実現するのは容易ではありません。実際に連携して成果を上げるにはさまざまな課題があるからです。

例えば、専門分野の間の壁。医療機器の開発の出発点は、主に医療現場になります。「こういう治療がしたいから、こういう機械がほしい」というような医療現場の要望(ニーズ)を、ものづくり企業などと共有するところから医工連携のプロジェクトは動き出すわけです。

しかし、医療機関は、治療法や薬に関する知識は豊富でも、ものづくりに関する知識を持っているわけではありません。逆にものづくり企業は、設計や開発、製造に関する知識は豊富でも、医療に関する知識を持っているわけではありません。使われている専門用語もずいぶん違うので、コミュニケーションも簡単には行きません。

さらに通常の機械と違い、医療機器は薬機法(旧薬事法)などの法律や規制に準拠しなくてはいけないので、設計、開発するにはそれらの法律を理解しておく必要があります。

医工連携という言葉自体は昔から使われていましたが、このような事情によりなかなか難しい面があったのです。

中小企業やベンチャー企業にも開かれる門戸

しかし医療現場とものづくり企業の間のコミュニケーションがうまく回るようになれば、状況は変わります。

ものづくり企業は、医療のプロフェッショナルからの意見やアドバイスを気軽に受けられるようになり、新しい医療機器も開発も進めやすくなるでしょう。また、医療機関も、現場からのニーズをものづくり企業に伝えやすくなり、そこから新しいアイデアが生まれることもあるでしょう。

極端にいえば、医療機器開発では、従来大手の医療機器メーカーによるところが大きかったのですが、医工連携が進めば中小企業、ベンチャー企業であっても医療機器開発の世界に足を踏み入れやすくなるはずです。

そのために地方自治体も医工連携に力を入れています。例えば東京都は「東京都医工連携HUB機構」を設立し、中小企業が参画しやすい環境づくりを推進しています。

<PR動画(Short Ver.) 東京都医工連携HUB機構>

「医工連携のための人材育成」は大学の重要な役割

大学も医工連携の中で新しい医療機器やテクノロジーの開発、イノベーションの創出に関わることになりますが、「医工連携のための人材育成」という重要な使命も持っています。

医工連携は異業種の人たちが密接につながり、垣根を越えて協力し合うことが欠かせません。それには「医療に関する知識を備えたエンジニア」「ものづくりの知識を持った医師、医療従事者」「医工連携のプロジェクト全体をまとめるコーディネーター」が必要です。

そのための人材育成は、医学部や薬学部、理学部や工学部、情報工学科など、医学、工学に関するさまざまな学部、学科を抱えている大学ならでは重要な役割といえるでしょう。

大学での取り組み

実際に大学が関わった医工連携の例をいくつか紹介しましょう。

筑波大学 歩行支援ロボットスーツ

筑波大学で研究していたのが、歩行支援ロボットスーツの「HAL」です。

これは、病気で筋力が低下し身体を動かすのが難しくなった患者に対して、身体を動かすための支援をするものです。腰や足、腕などに装着し、「この人は、歩き出そうとしている」というような動作の兆候を感知して、歩くための力を支援してくれます。

もともとは筑波大学で研究されていましたが、今では大学発ベンチャー企業のサイバーダイン社がHALの研究開発を手掛けています。

<ロボットスーツが驚きの進化!医療だけでなくトレーニングにも?「人の役に立つロボットをつくりたい」サイバーダイン山海CEOのいま!>

宮崎大学 ロボットを使ったリハビリの研究

2021年、宮崎大学は、ロコモの予防、改善を目的としたロボット「LOCOBOT」の林経研究を始めると発表しました。

ロコモとは「ロコモティブシンドローム」の略で、人間が歩く、立つなどの基本的な運動能力が低下した状態を指します。ロコモを放置すると要介護状態へ進む可能性が高くなるとされています。

LOCOBOTは、体重移動によって球体ロボットを操作するという仕組みで、遊びながら体を動かすことでリハビリになると期待されています。

・宮崎大学における医工連携による臨床研究開始について記者発表
https://www.miyazaki-u.ac.jp/newsrelease/topics-info/post-693.html


<「おしえて!みやざき」2月12日放送>

慶應義塾大学 医工連携プロジェクト

慶應義塾大学理工学部では、医用材料や薬剤開発、病期の診断や評価支援、治療・手術支援、看護や介護、療養生活支援に役立つ、数多くの研究を進めています。

例えば「歯科インプラント手術シミュレータの開発」は、歯を失った部分にインプラントを埋め込む手術を予行演習する技術の開発です。手術の際に神経を損傷するなどの要因からまひが残るケースもあります。そういうトラブルを避けるための手術シミュレータを慶應義塾大学が開発しています。

このようなたくさんの研究成果を以下のURLで発表しているので、ぜひアクセスしてみてください。

・慶應義塾大学 医工連携プロジェクト
https://www.st.keio.ac.jp/education/research/me_index.html

「医工連携」について学べる大学の学部、学科

医工連携は医学部、工学部や理学部などにまたがる分野ですが、「医工連携」という名称、もしくは類する名称を付けた学科名、コース、研究拠点を設ける大学も現れています。

例えば東北大学大学院が「医工学研究科」、東大病院が「医工連携部」、千葉大学工学部総合工学科が「医工学コース」を設けています。また東京女子医科大学と早稲田大学が設立した「東京女子医科大学・早稲田大学 連携先端生命医科学研究教育施設」のように、複数の大学がコラボレーションする例もあります。

・東北大学大学院 医工学研究科
https://www.bme.tohoku.ac.jp/

・医工連携部 – 東京大学医学部附属病院
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/ikou/

・千葉大学工学部総合工学科 医工学コース
https://www.f-eng.chiba-u.jp/education/mse.html

・東京女子医科大学・早稲田大学 共同先端生命医科学専攻(TWIns)
http://www.jointbiomed.sci.waseda.ac.jp/

<TWIns(東京女子医科大学・早稲田大学 連携先端生命医科学研究教育施設)紹介動画>