従来の宇宙開発は主に科学研究が目的であり、主に国家が中心となって展開してきました。ところが近年「ニュースペース」と呼ばれる、民間による宇宙産業が注目されるようになり、宇宙をビジネスとして活用しようという動きが加速してきています。
宇宙ビジネスとは?
「ロケットの父」と呼ばれるロバート・ゴダード。彼が人類史上初めて液体燃料ロケットを打ち上げたのは1926年のこと。上昇したのは2.5秒、高さにしてわずか41フィート(約12.5m)に過ぎません。それでも、宇宙を目指した彼の実験は、地球を飛び出すための第1歩でした。
初のロケットから100年足らずで太陽系外に到達
ゴダードによるロケット発射から100年に満たない現在、すでに人類は月に降り立ち、火星や金星などの惑星に探査機を送り込んでいます。そして惑星探査船であるボイジャー1号、2号は、40年近い旅の果てに太陽系外の恒星間空間へと到達しました。
このように、宇宙に関する研究は天文観測や惑星探査のみならず、宇宙環境の調査、あるいは人工衛星から地球を調査するといったものまで、幅広く進められてきました。
例えば、最近ニュースなどで、小惑星探査機の「はやぶさ」や「はやぶさ2」は、宇宙をただよう小惑星を構成する物質を持ち帰ることに成功したと世界的に注目されました。そこで採取した物質を調べることで、生命誕生の起源を探す研究に生かそうとしています。
科学研究からビジネス利用へ
ただ、そのようなプロジェクトは大掛かりな国家的事業となり、学術的、科学研究としての側面が色濃く出ていました。ところが現在では、そこから踏み出し、経済活動や産業にも活用しようという、民間企業による宇宙ビジネス「ニュースペース」も活発化してきました。
民間による宇宙ビジネスが拡大
宇宙に存在する資源や環境を活用して、私たちの生活水準向上を目指す宇宙ビジネスには、どのようなものがあるのでしょうか。
日常生活にも密接にかかわる「宇宙ビジネス」
地球の軌道上を回る人工衛星との距離と時間を計算することで、現在地を示す衛星利用測位システム(GPS)。実はこれも宇宙ビジネスのひとつです。このGPSと同様に、人工衛星を活用したテレビの衛星放送や天気予報なども、私たちの生活を支える宇宙ビジネスといえます。
また、地形や気象、地上の環境などを観測する地球観測衛星も、農業や漁業の生産量を予測したり、埋もれてしまった過去の遺跡を発見したりと、さまざまな用途で活用されています。
地球上どこでもインターネットにアクセスできる衛星ブロードバンド
著名な実業家であるイーロン・マスク氏が創業したスペースX社は、1万2000機の人工衛星によって地球上のどこからでもインターネットにアクセスできる衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」計画を進めています。
とはいえ、日本ではすでにインターネット回線が普及しているため、スターリンクのもたらすメリットが理解しにくいかもしれません。しかし、世界には通信環境が整備されていない、もしくは接続速度が遅い地域などが残っています。
そのような場所であっても、誰もが快適にインターネットにアクセスできる。それが、航空宇宙メーカーのスペースX社が展開する宇宙ビジネスです。
旅行業界のトレンドは、地球から宇宙へ?
ロケットに載って宇宙に行けるのは特別な訓練を受けた宇宙飛行士だけ。しかし、近い未来には、特別な資格を持っていない人間であっても、ロケットに乗って地球外に飛び出し、宇宙ステーションに宿泊できるサービスが始まるかもしれません。
そういう宇宙旅行を実現するため、民間の宇宙船が開発されています。アメリカの企業であるヴァージン・ギャラクティック社は、2018年に初めて、民間用の有人宇宙船を、高度80キロメートル以上の宇宙空間に到達させることに成功しました。そのときの宇宙船は垂直に上昇して宇宙空間に到達し、数分間無重力を体験して戻ってくるだけでした。しかし、2020年5月にはスペースXが民間の事業としては初となる、宇宙ステーションへの有人飛行を実現しました。
他にも、さまざまな企業が宇宙ステーションへの滞在も視野に入れて、宇宙旅行に関する研究開発を進めています。また、スペースXやオランダ企業のマーズワンでは、火星に人類を送る計画も立てています。
宇宙開発をさらに発展させるための取り組み
宇宙ビジネスを発展させるには、宇宙開発そのものの効率化が必要です。安く、簡単に宇宙を利用できるようになれば、宇宙ビジネスの事業も進めやすくなるでしょう。
宇宙にモノや人を運ぶ軌道エレベーター
宇宙開発を拡大するには、宇宙へモノを運ぶ能力を強化しなくてはいけません。そこでロケットの代わりとして研究されているのが軌道エレベーターです。軌道エレベーターとは、宇宙と地上をケーブルで結び、そのケーブルを運搬機が昇降することで、モノや人を運ぶものです。
打ち上げるたびに膨大なコストを必要とするロケットに対し、軌道エレベーターは一度作ってしまえば、安価にモノや人を運ぶことが可能となるため、宇宙の有効活用に大いに役立つものとして期待されています。
人工衛星の寿命を延ばす宇宙のガソリンスタンド
人工衛星は、燃料が切れてミッションが遂行できなくなったときに役目を終えます。しかし、燃料の補充ができれば、ミッションを継続できるようになります。そこで考えられたのが、「宇宙のガソリンスタンド」と呼ばれる、人工衛星に燃料を補充するためのサービスです。
日本の「宇宙ビジネス」
日本でも、ほとんどの宇宙開発が国の事業として進められてきたという背景があり、海外のように、ベンチャー企業が積極的に新しい宇宙ビジネスを立ち上げるようなケースは多くはありません。
しかし2020年、宇宙基本計画において、日本でも宇宙政策を強化するとしています。そこでは、宇宙の安全保障、災害対策や地球規模課題への解決、新たな知の創造、宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現などが挙げられています。そして宇宙産業の規模を2030年代早期に倍増することを目指すとしています。
日本でも民間ロケットを研究開発
2003年に設立したインターステラテクノロジズは、北海道を拠点に、日本オリジナルの民間ロケットの開発に取り組んでおり、2019年には、民間ロケットとして初めて宇宙空間に到達するという偉業を成し遂げました。ちなみに2013年には「みんなで飛ばそう!Pocky Rocketキャンペーン」として、江崎グリコのポッキーの外装を施したロケットを打ち上げています。
大学ベンチャーから生まれた観測データの分析
2018年に設立したシンスペクティブは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京工業大学などによる共同研究から生まれたベンチャー企業です。人工衛星の設計、開発、運用、そして衛星からの観測データを分析、販売する事業を展開しています。地球上の地形や構造物の正確なビッグデータは、不動産事業、地域の開発、災害時の対策などに生かすことが期待されています。
「宇宙ビジネス」について学ぶ大学の学部、学科
宇宙についての学問には、航空宇宙工学、宇宙物理学、惑星科学などがありますが、ロケットや人工衛星の設計、開発となると大学では航空宇宙工学科となるでしょう。
ところが宇宙ビジネスという観点から視野を広げると、違う道も見えてきます。必要になるのは、宇宙を、私たちの日常生活、ビジネスやサービスに結びつけるアイデア。一見、宇宙に関係ないような研究も、衛星などのデータを活用することで大きな発展につながることもあるはずです。