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多様なニーズに応える新しいモノづくり【マスカスタマイゼーション】。ICTで靴も自動車もオーダーメイド!

消費者ニーズの多様化を受けて、大量生産から多品種少量生産へのシフトが始まっています。ところが多品種少量生産には、コストと手間が増えるというデメリットもあります。そこで登場したのが、大量生産に近いコストと手間で多品種少量生産を実現しようという「マスカスタマイゼーション」です。しかし、これは製造現場の効率化だけの話ではありません。一人ひとりのニーズに応えるSociety 5.0の実現につながるテクノロジーについて、解説します。

「マスカスタマイゼーション」とは?

産業革命によって実現したのが、同一製品を大量に、かつ効率よく作る「大量生産」というしくみです。この大量生産の利点は、製造する企業側だけが享受できるというものではありません。購入する消費者側にとっても、「良いものを、低価格で入手できる」というメリットも生まれました。

ところが、消費者のニーズが多様化した現在では、「自分に合った個性的なものを持ちたい」「他の人と同じようなものは欲しくない」と考える人も増えてきました。そこで近年、大量生産から「多品種少量生産」へとシフトしてきたのです。

バリエーションの多い製品を効率よく作る

多品種少量生産とは、「大量生産(マスプロダクション)とカスタマイゼーション(個別設計、個別生産)を組み合わせた言葉であり、大量生産に近いコストでカスタマイズした製品を作ろうというわけです。

具体的には、同じ製品でも機能や性能、デザインが異なる、いくつものバリエーションを効率よく生産するケースが挙げられます。例えば自家用車。自動車を購入する際、車種やグレードを選んだあとに、車体のカラー、シートやダッシュボード、内装のデザインやカラー、オプションなどを選択していきます。その結果、自分の好きなデザイン、カラーを組み合わせた自動車が購入できます。

またパソコンやスマートフォンも、CPUと呼ばれる性能を左右するチップ、メモリーやストレージの搭載量、カラーなどを選択できるようになっています。このように色違い、スペック違いのさまざまなバリエーションがラインアップされるのも、多品種少量生産によるものなのです。

多品種少量生産の課題はコストと手間

大量生産に比べると、当然ながら多品種少量生産にはコストや手間が増えます。

「製造する側の視点」で考えてみましょう。例えば、自動車のカラー、シート、ダッシュボード、内装を各3色から選べるとします。これだけでも組み合わせは、3×3×3×3で81種類に達します。実際には、選べる対象、色やデザインはもっと多いので、膨大な組み合わせが発生します。

つまり、生産する側ではそれだけの種類をしっかり管理して個別に作らなくてはいけないということになります。

「マスカスタマイゼーション」の具体例

マスカスタマイゼーションの概念そのものは20世紀から存在するもので、決して新しいものではありません。しかし近年、注目が高まっている背景に、ICTの向上が挙げられます。ICTが普及したことで、一つひとつの注文から設計、製造へという流れを一貫して管理しやすくなり、マスカスタマイゼーションを実践しやすい環境が生まれてきたのです。

現実の工場をデジタル空間に再現するデジタルツイン、立体物を印刷する3Dプリンター、あらゆるデバイスがネットにつながるIoT(モノのインターネット)などの新しいテクノロジーも、マスカスタマイゼーションに役立つと期待されています。

パソコンの受注生産

典型的なマスカスタマイゼーションの例としては、パソコンの受注生産があります。パソコンはスペックによって、性能が変わってきます。しかし量販店で買おうとすると、店頭に用意されているものから選ばなくてはいけません。

ところがメーカー直販サイトにアクセスすると、自分でカスタマイズ(機能などを選択)したものを購入できます。ユーザー自身が、CPUやメモリー搭載量、ストレージ(SSDやHDDなど)の搭載量、OSの種類、オプションなどを、Web上から指定して注文し、注文データはそのまま工場に回され、カスタマイズされたパソコンが製造されていきます。

自分の身体にマッチしたアパレルやファッション

スポーツメーカーのNIKEでは、Web上からスニーカーの色や素材を指定して注文できるサービスを提供しています。ファッション通販サイトのZOZOでは、3D計測用ボディースーツ「ZOZOSUIT 2」を発表しています。これは消費者が自分の身体を計測し、自分の身体にあったスポーツウェアやアンダーウエアを注文したり、予防医療やヘルスケアに活用していこうというものです。

<ZOZO MEASUREMENT TECHNOLOGY>

ユーザーからは、「Webから好きな仕様を指定して注文すれば、自分だけのオリジナルの商品が届く」だけに見えるかもしれませんが、その裏側では、たくさんのバリエーションから一つひとつを個別に作り、管理するという膨大な手間がかかっているのです。そして、さまざまなICTシステムによって一つひとつの商品を管理して製造することで、マスカスタマイゼーションを実現しているというわけです。

Society 5.0における多様なニーズに対応するものとして期待

ここまでの話から、「マスカスタマイゼーションは、製造現場における効率化の話」と受け取る方も少なくないでしょう。しかしむしろ、これからの社会やビジネスの変化にもかかわる話なのです。

例えばマーケティングや商品の企画、開発。かつてのマーケティングは大量生産にあわせた「マスマーケティング」が主流でした。マスマーケティングとはテレビCMのように多くの消費者に対して同じメッセージを送る手法です。これは同じ製品を膨大に作る大量生産にあったマーケティングといえるでしょう。

しかし、消費者ニーズの多様化に伴い、「ワン・トゥ・ワンマーケティング」が注目されるようになりました。これは、一人ひとりの消費者に対応したマーケティング手法のこと。ニーズの多様性にかかわるという点から、商品の企画や開発も含めて、マスカスタマイゼーションと関連づけて考えるべきなのです。

特にこれからの社会といわれるSociety 5.0では、多様なニーズに対応することが期待されています。それを実現するための手法のひとつがマスカスタマイゼーションといえるでしょう。

「マスカスタマイゼーション」について学ぶ大学の学部、学科

基本的にマスカスタマイゼーションは、モノづくりにかかわるものです。しかし、大学でマスカスタマイゼーション学ぶ場合は、必ずしも理工系で扱うとは限りません。

むしろ「経営学」「経済学」「サプライチェーンマネジメント(SCM)」「マーケティング」などの科目で学習することになるでしょう。それは、あくまでマスカスタマイゼーションは手法の一つに過ぎず、「これからの時代、多様化するニーズにどのようにして対応していくべきか」という視点が重要であることの表れといえます。

『マスカスタマイゼーション』の活用が期待できる分野

製造業、マーケティング、商品企画開発

参考

NIKE
https://www.nike.com/jp/nike-by-you

ZOZO
https://corp.zozo.com/news/20201029-12001/