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DNAでナノマシンをつくる【DNAオリガミ】の研究。日本の大学で世界初の研究も

生物のすべての細胞に存在するDNA。それを材料にして作った機械が「DNAオリガミ」です。人間の体内に入れて病気を治す、ミクロな世界の機械も作れるかもしれません。日本の大学でも多くの研究成果を上げています。今回はDNAオリガミについて紹介します。

「DNAオリガミ」とは?

DNAは、デオキシリボ核酸のこと。遺伝子を構成する物質として、理科や生物などの授業でも習っているはずです。二重らせん構造を持つ鎖であるDNAは、生命の設計図。そのDNAを使って製造する、とても小さなデバイスが「DNAオリガミ」です。

ここでいう「オリガミ」とは、誰でも子供のころに遊んだことがあるであろう「折り紙」のこと。DNAを折り紙のように操作して作るので「DNAオリガミ」という名前が付きました。

<DNAオリガミ〜世界最小の『モナリザ』>

DNAオリガミのしくみ

DNAオリガミの研究は2006年に始まりました。このアイデアを考え出したのは、カリフォルニア工科大学のPaul Rothemund博士です。

DNAは、A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)という4種類の塩基から構成され、AとT、CとGが結合するという特性を持っています。その特性を活用したのが、DNAオリガミです。

プラモデルをイメージしてみてください。プラモデルは、パーツ同士を「接合部分でつなぎあわせること」で完成させていきます。DNAオリガミも肝になるのは接合部分です。例えば「AACC」という塩基配列があれば、そこは「TTGG」という塩基配列とつながろうとします。そこがDNAの接合部分になるわけです。

そのようにして1本の鎖状の紐(ひも)であるDNAを折ったりつないだりしていくことで、さまざまな形のデバイスを作ることが可能になるのです。

DNAオリガミは何に役立つのか?

DNAで作るだけあって、DNAオリガミのサイズは100ナノメートル(nm)級の非常に小さいものになります。ナノは10億分の1を指すので、1nmは10億分の1メートルです。

DNAオリガミで作れるデバイスも多種多様です。例えば、模様やアイコン、絵やイラスト。2017年には、レオナルド・ダ・ビンチの名画「モナリザ」をDNAオリガミで描いたことが話題になりました。

絵のような「動かないもの」だけではなく、可動パーツを持つ小さな機械を作ることも可能です。それを人間の体内に注入すれば、体の中でいろいろな役割を果たすことが可能になるでしょう。その技術を発展させていけば、いずれは人間の体の中に入れて病気を治すような超小型ロボット、ナノマシンを作ることも可能でしょう。

日本の大学も研究成果を上げている

2006年に始まったばかりのDNAオリガミの研究は、これから発展していく新しい分野であり、さまざまな研究も進められています。日本の大学で行われているいくつかの研究を紹介しましょう。

人工筋肉を開発、医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンも視野に

2019年、北海道大学大学院、関西大学、東京工業大学のグループは、DNAオリガミとモータータンパク質の技術を組み合わせて、分子人工筋肉の開発に世界で初めて成功しました。これは小型の動力源としての利用が考えられ、将来的には医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンなどへの応用が期待されています。

世界初!DNA オリガミを融合した分子人工筋肉を開発
~ナノからマクロスケールまで広範に適応する再生可能なソフトアクチュエーターとして期待~

https://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/pressrelease/2019/Nojr2.pdf

人工細胞を作成、分子ロボットなどに活用

2019年、東京工業大学、東北大学、東京農工大学、東京大学、京都大学らの研究グループは、人工細胞微小カプセルの開発に成功しました。これは、DNAオリガミを使った細胞膜を模したカプセルです。

生物が持つ細胞膜はさまざまな機能を備えていますが、そのような複雑な機能を人工的な細胞膜に持たせるために、DNAオリガミが活用されています。この技術によって、自律的に動ける分子ロボット開発などへの応用が期待されています。

DNAオリガミによる人工細胞微小カプセルの開発に成功
-機能をプログラム可能な分子ロボットの開発に期待-

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/09/press20190918-02-dna.html

1個の分子をつまめる、ナノサイズのペンチを作成

関西大学では、DNAオリガミを使って、ペンチの機能を持つデバイスの作成に成功しました。標的とする分子を見つけると先が開き(Xの形になる)、つまんで閉じる(=の形になる)という動きを実行できます。さらに標的を見分ける部分を調整することで、いろいろな分子に対応できます。このしくみを使って、関西大学では人工抗体の開発に取り組んでいます。

DNAオリガミ分子機械を活用した人工抗体の開発
https://wps.itc.kansai-u.ac.jp/mol-mach/topics/machines/

DNA折り紙法の活用によるナノメカニカルデバイスの構築
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_letter/data/news_2012_vol1/p10.pdf

しなやかに曲がるナノアームを開発

2020年、東北大学は、DNAオリガミで作られた、しなやかに曲がるナノアームを開発しました。従来のDNAオリガミデバイスの動きは、開閉やスライド、回転などの単純な動きだったのに対して、複数の変形モジュールから構成したことで、イオンに応答して「しなやかに曲がる」ナノアームを実現しています。

DNAオリガミで「しなやかに」曲がるナノアームを実現
~化学環境に応じて変形する分子スケールのアクチュエータ~

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/04/press20200403-04-dna.html

「DNAオリガミ」を研究している大学の学部、学科

DNAオリガミは、情報工学、生命工学、バイオテクノロジーなどを扱う学部、学科で学ぶことができます。京都大学のDNAナノテクノロジーグループのように、DNAオリガミをはじめ、さまざまなDNAナノテクノロジーの研究拠点を持つ大学もあります。

京都大学 DNAナノテクノロジーグループ
http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/chembio/DNA%20nanotech_j.html

今回紹介したように、世界初の技術を日本の大学が発表するケースもあります。新しいことへの挑戦に関心があるなら、大学でDNAオリガミの研究に取り組んでみてはいかがでしょうか。

『DNAオリガミ』の活用が期待できる分野

医療、ロボット、ドローン