大学を卒業すると「学位」が授与されます。4年制大学卒業の場合、授与される学位は「学士」です。では、そもそも学位とはなんでしょうか? どんなときに役に立つのでしょうか。また、大学院では「修士」や「博士」という学位が授与されますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか? 今回は、大学入学前に知っておきたい基本用語の「学位」と、関連する用語について説明します。
「学位」は学びを修めた者に対する称号
大学を卒業すると、「学士」という名称の「学位」を在籍していた大学から授与されます。
この学位とは、定められた一定期間、専門分野などについて学業を修めた者に対する称号(身分や資格などを表す呼び名)です。つまり、「あなたは大学できちんと勉強しました」ということを表してくれるのが「学士」という学位なのです。
卒業・学位授与の方針は、大学ごとに決められている
「学位は、単なる称号か」と思った人もいるかもしれません。しかし、称号といっても学位はきちんと法律で決められたものです。文部科学省の学校教育法の規定に基づく「学位規則」では、学位について以下のように定めています。
※「学位規則」からの引用(一部抜粋)
第二条 学士の学位の授与は、大学が、当該大学を卒業した者に対し行うものとする。※リンク 「学位規則」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=328M50000080009
また、冒頭では「大学を卒業すれば学士という学位が授与される」と簡単に書きましたが、大学あるいは学部・学科ごとに「卒業・学位授与の方針」(「ディプロマポリシー」と言います)を定めています。
大学側は、ディプロマポリシーに沿って、必要な単位や知識、スキルを修得し、学習目標を達成した学生に対してのみ、学位を授与します。多くの大学では、公式サイトでディプロマポリシーについて記載しています。大学受験に直接関係はありませんが、志望大学のディプロマポリシーは一度目を通しておくとよいでしょう。
・ディプロマポリシーの記載例
慶應義塾大学 学部入学案内-各学部における3つの方針
https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/examinations/policies/
短大卒、大学院修了の場合の「学位」は?
短期大学を卒業した人や、大学院を修了した人に対しても、同様に学位規則に基づいて学位が授与されます。
- 短期大学卒業の場合:短期大学士
- 大学院の修士課程修了の場場合:修士
- 大学院の博士課程修了の場合:博士
大学院の場合は、「修士課程」か「博士課程」かによって授与される学位が異なります。なお、修士と博士の違いについては後ほど説明します。
「学位」には、大学・大学院での専攻分野も明記される
前述の「学位規則」には、学士や修士、博士などの学位を表記する場合は専攻分野も併せて記載することが指示されています。具体的には、「学士(専攻分野)」「修士(専攻分野)」といった書き方になり、たとえば経済学部を卒業した人の学位は「学士(経済学)」です。
また、大学・学部によっては学科名などを専攻分野として記載する場合もあります。たとえば、ある大学の国際政治経済学部国際コミュニケーション学科を卒業した場合は、「学士(国際コミュニケーション)」が授与されます。
過去を振り返ると、1991年(平成3年)6月30日以前は「経済学士」のように「○○学士」という表記方法でした。しかし、新たな学問分野が次々と登場する中で、カッコ書きにすることでより柔軟に対応できるようにしたものです。
「学士」レベルでは、「学位」が問われる機会は少ない
学位が何の役に立つのか、気になる人もいるのでは? 実のところ、4年制大学を卒業して授与される学士レベルでは、直接役に立つことはあまりありません。たとえば、卒業の証明であれば、大学が発行する卒業証明書などが有用です。とはいえ、大学が求める質の高い学問を修めたことを証明する称号です。学士という学位を授与されたことは誇りに思ってよいでしょう。
なお、研究者を目指す場合には、一般的に博士の学位が必須となります。
大学院の「修士」と「博士」の違い
高校生の頃から大学院進学まで視野に入れているという人もいるでしょう。大学院では、すでに述べたように修士課程を修了すると「修士」、博士課程なら「博士」という学位が授与されます。
修士と博士の違いを、改めて確認しておきましょう。
大学院における修士課程と博士課程の目的の違い
同じ「大学院で学ぶ」といっても、修士課程と博士課程では目的が異なります。学校教育法に基づく「大学設置基準」の中では、大学院の修士課程と博士課程の目的を次のように定めています。
※「大学設置基準」からの引用(一部抜粋)
・修士課程の目的 広い視野に立つて精深な学識を授け、専攻分野における研究能力又はこれに加えて高度の専門性が求められる職業を担うための卓越した能力を培うこと。
・博士課程の目的 専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うこと。
ひと口に大学院で学ぶといっても、修士課程が修了後に社会で働くことを前提としているのに対して、博士課程ではより研究活動に力点を置いていることがわかります。
実は3つのパターンがある大学院での学びの課程
大学院というと、修士課程2年間+博士課程3年間の合計5年間というイメージを持っている人が多いと思います。それは間違いではありませんが、日本の大学院の仕組みには3つのパターンがあります。
1つは、修士課程の2年間で修了するもの。修士課程のみ設けているという大学院もあります。
2つめは、5年間の博士課程を、前期2年間と後期3年間に分けて修了するもの。
そして3つめが、前期・後期の区別を設けずに5年間を一貫制の博士課程とするものです。
主流は、2つめの博士課程前期・博士課程後期の前後期制というパターンです。大学によっては、博士課程前期を修士課程と呼ぶこともあります。逆に、博士課程前期と聞いた場合は修士課程と同じことだと思っておくとよいでしょう。
博士課程前期を修了して、博士課程後期に進まない場合には、博士ではなく修士の学位が授与されます。
博士後期課程の「満期退学」「単位取得後退学」とは?
大学の教員や研究者のプロフィール欄を見ていると、ときどき「○○大学大学院博士後期課程を満期退学」あるいは「単位取得後退学」といった記載があることに気づくはずです。「退学」というと中途退学(中退)のイメージが強いかもしれませんが、「満期」や「単位取得後」とも書いてあることからわかるように、中退ではありません。
「満期退学」と「単位取得後退学」とは、大学院の博士課程後期で必要単位は取得したものの、論文の審査が通らなかったり、試験に合格できなかったりした場合を指します。その場合は、博士の学位は授与されません。ただし、退学後に博士論文を提出して審査に合格すれば博士の学位を取得することが可能です。
修士1年はM1、博士1年はD1、では大学1年は?
最後は、大学・大学院で学生を呼ぶ際の名称について紹介しましょう。これを知っておけば、大学入学後に役立つかもしれません。
大学院では、修士課程1年を「M1」、博士課程1年を「D1」と呼ぶことがよくあります。その由来は、それぞれの英語の名称です。
大学院の修士課程は英語でMaster’s course、博士課程はDoctor’s courseといいますが、その頭文字のMやDを取って学年と組み合わせているのです。なお、D1といった場合は、基本的には博士課程後期の1年という意味です。ただし、一貫制博士課程を採用している大学院では、1年~5年をD1~D5で表す場合もあります。
大学1年の「アルファベット+数字」表記がB1になる理由
では、大学院ではなく大学の1年生は何と呼ばれるでしょうか。答えは「B1」です。学士を英語でいうとbachelorで、学士課程はbachelor’s courseとなるため、その頭文字を取ってB1というわけです。ちなみに、「バチェラー」は独身男性という意味もありますが、この場合は学士を指す言葉なので間違えないようにしましょう。
修士のM1~M2、博士のD1~D3に比べると使用される頻度は少ないようですが、留学生が多い大学などではB1~B4という呼び名も徐々に定着していて、大学の公式文書などに記載される場合も増えているようです。