データを活用し、ビジネス課題を解決するデータサイエンティストの需要が高まる中、工学院大学では数理・ITだけでなく、経営まで包含したデータサイエンス教育を行っています。データサイエンティストとして活躍するために身につけておきたいスキルなどについて、工学院大学 情報学部学部長 三木良雄先生にお話を聞きました。
<データサイエンス教育について | 工学院大学 情報学部 学部長 三木良雄先生>
工学院大学が考えるデータサイエンティストとは?
現在、様々な分野でデータが活用されていますが、データを分析・解析する技術だけがフォーカスされている印象があります。例えば、大量のデータをコンピュータに入力して統計処理をしたり、人工知能アルゴリズムでなんらかの答えを導き出すことが、データの活用だと思っている人が多いのではないでしょうか。しかし実際は、データを集めて分析するだけでは、問題を解決することはできません。私たちが目指しているのは、データサイエンスを学ぶことを通して、世の中で起きている問題を解決できる技術者を育てることです。
工学院大学 情報学部
学部長 三木良雄 先生
データサイエンティストに必要なスキルは「数理+IT+経営」
データサイエンティストに必要なスキルとして、数理とITをイメージしている人が多いと思います。しかし、社会の課題を解決するためには、経営に関わる部分も含めて考えていかなければなりません。データを集めて分析する前に、まず「問題は何か」ということを分析的に定義することが必要です。そして、分析して終わるのではなく、問題解決に向けて分析結果を改善策として練り直さなければなりません。本学では、問題定義、分析、解決策の立案がそろって、初めて問題解決ができると考えています。
その過程は、病院を受診する流れと似ています。どこか具合が悪くなったとき、病院へ行っていきなり血液検査をしたり、レントゲン検査をすることはないでしょう。まず、医師は患者にどのような症状が出ているかをヒアリングして、どのような検査が必要か考えます。そして必要と思われる検査をしますが、数値や画像を見せて終わりではありませんね。検査の結果から原因や治療方針を考えて、治療を進めていきます。本学が定義しているデータサイエンスの全体像も、同様に考えていただくとわかりやすいと思います。
企業で活躍するためには応用力まで身につけることが重要
人材を求める企業側も、人工知能の技術さえあれば、すべての問題が解決できると誤解していることが多いように感じます。そのような企業は、大学で基本的な技術を身につけていれば、実社会でも活躍できるだろうと考えているのではないでしょうか。しかし私たちは、企業に勤めてデータ分析を行うなら、問題解決まで1人で遂行できる力を身につけていなければならないと考えているのです。
ですから大学での教育も、基礎的な技術だけでなく、応用的なところまで身につけられるようにする必要があります。人材を求める企業側が、応用力を兼ね備えた学生を強く希望するようになれば、今後は企業のニーズと大学での教育のギャップもなくなってくるでしょう。
工学院大学のデータサイエンス教育
本学は、100年を越える長い歴史を持った工科系大学として、社会が求める理想的なエンジニアを生み出す使命があると考えています。その意味で、データサイエンティストとは、統計処理の技術を持っているだけでなく、問題を解決できる人材であるべきだと考えているのです。問題解決まで達成することを目指しているため、研究や教育は実際の問題を取り扱わなければなりません。企業が実際に抱えている問題を提供してもらい、学生たちには本当の問題をテーマにして解決方法を考えてもらっています。
学生たちは企業見学をして、実際の問題を知り、働いている人がどのような意識で日々過ごしているかを見てから分析をしています。学生は経験が少ないですが、どうしたら企業が直面している問題を解決できるか、そこまでのイメージを持って統計学やアルゴリズムを勉強しているのです。それによって、幅広い知識を自分で獲得する力を身につけることができます。そこから、自分が持っているエンジニアとしての力を世の中に対してどのように発揮することができるか考え、理解した状態で、社会へ旅立っていけるような教育を目指しています。
本学では、全学部の学生が共通で受講できるデータサイエンスに関する科目を用意しています。それらの科目は、文部科学省より「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されました(認定の有効期限:令和8年3月31日まで)。コンピュータを使うための基礎的な技術を学ぶ科目が各学部で用意されているだけでなく、データに基づいて物事を判断するスキルまで含めて、深く学ぶ機会が全学部の生徒に用意されているのです。
例えば、“ものづくり”という入り口から入った学生が、大学で学んでいくうちにマーケティングやコンサルティングに関心を持ったとしたら、プログラムを通してデータサイエンスの応用的な学びに進むこともできます。どの学部に入っても、データサイエンスを様々な分野で活用する力を身につけることが可能です。
より深くデータサイエンスを学びたいなら、システム数理学科へ!企業との共同研究に取り組む「経営情報システム研究室」
私の研究室では、路線バスの研究、産業界における製造機械のデータ分析、洋菓子店やパン屋さんなど、個人商店のデータ分析と経営解析という3つを大きな柱として研究に取り組んでいます。本学のキャンパスがある八王子市は、市長が学生の意見を直接聞く機会を定期的に作っています。その機会を利用して、学生たちは提案を続けていますが、そのような機会にもデータに基づいて理由を説明していくことが重要です。
具体的には、路線バスの乗降客データをバス会社と共同研究の形で入手して分析しています。目標は、データに基づいてよりよいダイヤ、よりよい路線を分析的に発見し、改善することです。バス路線のデータを使うと、市民の動きや生活も見えてきます。バスの使い方やサービスの在り方を変えることは、もっと住みやすくなる街作りの提案にもつながります。
高齢化が進み、バスの利用ニーズが高まっていることを受け、予約制の新しいバスシステムをつくりたいと考えています。例えば、大きな病院とバスの連携です。病院の予約とバスの予約が同時にできれば、同じニーズを持つ人を同時に運ぶことができるようになります。病院と利用者、そしてバス会社のデータを結びつけることで、時間を有効に使えてみんなが喜ぶシステムの実現を目指しています。
工学院大学が掲げる「社会や企業をリードするデータサイエンティスト」とは?
私たちは、データに基づいて経営を改善させる提案が出せるエンジニアの養成を目指しています。ですから就職先は、IT企業に限りません。データサイエンスの力は、業種を問わず活かすことができるのです。食品関係や百貨店をはじめ、金融機関で行う与信なども、“データ分析の塊”といえます。鉄道のメンテナンスでは、点検に要する人件費を削減するために、データから修理が必要な時期などを予知・予測しているのです。
どんな業種、どんな企業であれ、「君の意見に基づいて方針を決めるぞ!」と言われる立場になれる力を身につける、それが情報を活かして社会や企業をリードするということです。
データサイエンスを学びたいと思っている高校生へのメッセージ
ITや情報処理技術に関心を持った高校生は、大学で「ゲームを作りたい」「スマホをもっと活用したい」などと思っているかもしれません。しかし、そのイメージは大学での学びとは少し違うと思います。データサイエンスは、適用範囲が広く、世の中全般に影響を与えることができる力強い技術です。
本学では、データサイエンスや人工知能だけでなく、基本的な情報処理技術を身につけることで、それらの技術が世の中のどこにどのように役立つか学ぶことができます。目に見えるものだけをITだと思わず、それがいったい何に使えるのか、どこに役立つのかという期待を持って、勉強することを目指してほしいです。同じような学科名でも、大学によって教育内容は異なります。学部や学科名にとらわれず、何を学べるかをしっかりと調べて、大学や学部・学科を選んでください。
研究室情報
大学名 | 工学院大学 |
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学部・学科 | 情報学部 システム数理学科 |
研究室 | 経営情報システム研究室 |
教員名 | 三木 良雄 教授 |
研究キーワード | データ分析 / IoT / 人工知能 / クラウドコンピューティング |
URL | https://www.kogakuin.ac.jp/faculty/lab/info_lab164.html |