大学の選び方

大学の研究と経済・社会の活動を結び付ける【産学官連携】とは。年間実績3万件、年々増加!

「大学と企業が共同で新製品を開発」といったニュースを見聞きしたことはありませんか? 大学と企業、さらには国や公的機関が連携して研究開発を行う、「産学官連携」の取り組みが増えています。大学にとっては、研究成果を社会で生かせるなどのメリットがあります。高校までとは異なる大学ならでは取り組み「産学官連携」の基本を説明します。

「産学官連携」とは?

最初に、「産学官連携」の言葉の意味を押さえておきましょう。

「産」は、企業やNPO法人など民間でビジネスをしているところを指します。「学」は、主に大学や研究機関です。高校を含む場合もあります。そして「官」は、国や地方自治体、国公立の研究機関などのことです。この3者が共同で研究をしたり、あるいは「産」と「学」の研究を「官」が結び付けたりといった連携を行うことを「産学官連携」といいます。

「産学官(さんがくかん)」

「産」:企業やNPO法人
「学」:大学や研究機関
「官」:国や地方自治体、国公立の研究機関

ちなみに、「産官学連携」と呼ぶこともありますが、順番が変わっても意味は同じです。また、企業と大学が連携して研究などを行う場合は「産学連携」といいます。「産学連携」には、大学の研究から起業する「大学発ベンチャー」も含まれます。

大学での研究を社会に生かす【大学発ベンチャー】とは? 多い業種と具体例大学は、学修や研究の場です。でも、それだけではありません。実は、新しい事業やそれを運営する企業を次々に世に送り出している拠点でもあります...

「産」「学」「官」、それぞれのメリット

「産学官」が連携をするのは、大学、企業、国や公的機関のそれぞれにとって連携をする意味やメリットがあるからです。一つひとつ見ていきましょう。

『大学』のメリット= 新しいアイデア、研究費の調達

大学は、企業との共同研究によって「新製品」などの形で、研究成果を社会に還元できます。また、大学の研究にビジネスの視点が加わる、国が目指す社会のあり方を知るなど、外部の価値観や目的意識に触れることで、発想が柔軟になり、そこから新たなアイデアや研究が生まれる可能性もあります。

もちろん、企業や公的機関からの研究費の調達という意味でも、大学にとって連携は大きなメリットです。

さらに、大学の重要な使命である教育や人材育成の観点でも「産学官連携」には意味があります。共同研究に大学院生などの学生を参加させた場合、ビジネスとしての熾烈(しれつ)な技術開発の現場に触れることなどで視野が広がり、学生自身の研究にもプラスの効果が期待できるのです。

『企業』のメリット= 研究開発を適切かつスピーディーに

企業にとっては、大学の研究者が持つ深い知識や幅広い人材を活用できることが、連携のメリットです。例えば、企業は社会の中に課題を見つけて、さまざまな研究開発を行い、製品や技術を世に出していくのが使命ですが、個々の研究開発に適した人材が常に社内にいるとは限りません。

一方、大学には、分野ごとに専門の研究者がいます。大学と連携することで、企業は最適な人材を確保でき、スピーディーに開発を進められます。

『国』のメリット= 社会の発展に生かす

国にとっても、「産学官連携」は非常に大きな意味があります。国は、社会を発展させていく必要がありますが、大学の研究とビジネスを結び付けて、社会が抱えるさまざまな課題が解決することは、社会の発展につながるからです。

そのために、科学技術振興機構(JST)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)といった国立の研究開発法人が、解決すべき課題を具体的に提示し、解決課題を目指した研究に参加する大学や企業を募集するというプロジェクトも盛んに実施されています。プロジェクトに採択された大学や企業は、研究資金を提供されて研究を開始します。

プロジェクト例:地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(STREPS)
https://www.jst.go.jp/global/
日本と開発途上国の国際科学技術協力の強化や、地球規模の課題の解決などを目的に、科学技術振興機構(JST)と日本医療研究開発機構(AMED)、国際協力機構(JICA)が共同で実施している3~5年間の研究プログラム。

年々拡大する「産学官連携」の取り組み

国が力を入れていることもあり、「産学官連携」による共同研究の件数は、近年大きく増えています。文部科学省が2021年に発表した「大学等における産学連携等実施状況について(令和元年度実績)」によると、2019年度の民間企業と大学の共同研究は2万9282件です。その4年前の2015年度は2万0821件だったので、わずか4年間で1.4倍に増えたことがわかります。

また、大学の研究資金などの受け入れ額も増えています。共同研究による研究費に、治験や受託研究、特許などの知的財産収入などを加えた「研究資金等受入額」は、2015年度の約3082億円から13%増加し、約3482億円に達しています。

「産学官連携」の具体例

具体的には、どのような「産学官連携」の取り組みがあるでしょうか。ここでは、文部科学省が公表している資料からいくつかの事例をピックアップして、簡単に紹介します。

山形大学

【 印刷方式によるフレキシブル有機薄膜太陽電池 】
https://inoel.yz.yamagata-u.ac.jp/news/1880/
山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンターは、MORESCO、イデアルスターという2社の民間企業との共同研究により、印刷技術を用いたフィルム状の、軽量な太陽電池を開発した。屋内でも簡単に太陽光で発電することが可能になり、省エネに役立てることができる。

筑波大学

【 コンクリート床仕上げロボット 】
https://ura.sec.tsukuba.ac.jp/archives/13865

筑波大学は、大成建設との共同研究で、これまで土間工が仕上げていた「コンクリート床仕上げ作業」(コンクリート床の表面を加工する作業)を行うロボットを開発。当初はオペレーターによるロボット操作が必要だったが、さらに研究を続けて半自律制御操作ができるシステムも開発した。建設業界の労働者不足、熟練工の高齢化などへの対応が期待できる。

徳島大学

【 世界の食糧危機を救う「コオロギせんべい」の商品化 】
https://www.muji.com/jp/ja/feature/food/460936
2016年から、高たんぱく、高エネルギーのコオロギを食料源化する研究を進めていた徳島大学。2019年5月に、食用コオロギの生産などを行う大学発ベンチャー・グラリスを設立し、大学とグリラス、さらに販路を担う良品計画との3者共同で、食用コオロギ商品の開発を進めた。

東京電機大学

【 円形ブロックおもちゃ「JOIZ(ジョイズ)」 】
https://www.people-kk.co.jp/toys/pythagoras/joiz_about.html
科学技術振興機構(JST)の「新技術説明会」で、東京電機大学の特許技術「組立構造体」が紹介されたことがきっかけで、玩具メーカーのピープルと共同で特許技術を活用した円形ブロックを商品化。このブロックにより、こどもの豊かな想像力や創作力を養うことが期待される。大学は、数理とデザインの視点から製品化支援を担当した。

文部科学省の下記Webサイトでは、より多くの事例に触れることができます。興味のある大学について、どんな取り組みがあるのかチェックしてみるとよいでしょう。

大学等における産学連携等実施状況について(令和元年度)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1413730_00010.htm
(このページ内の「様式13(1/4~4/4)」のリンクに各大学の事例が紹介されています)。

「産学官連携」の取り組みは今後も拡大

大学、企業、そして国・公的研究機関が、それぞれの強みを生かしながら研究開発を進める「産学官連携」の取り組みは、今後もますます拡大していくことは間違いありません。

これまでは、どちらかというと理系による「産学官連携」が中心でしたが、今後は社会学系、人文学系の連携や、文系理系にとらわれない文理融合体制での連携も増えていくと考えられます。

さらに、個々の研究室と企業のあるプロジェクトが連携するだけでなく、大学と企業が組織的に連携する取り組みも増えてきています。組織的な連携によって、より大きな効果を生み出すことが期待されています。

現在は、多くの大学で「産学官連携」を推進するための部署などを作り、大学の財産である研究力や技術力を適切な形で社会に還元するための支援を行っています。

大学の「産学官連携」の部署の例:京都大学産官学連携本部
https://www.saci.kyoto-u.ac.jp/

「大学と企業が共同で新製品を開発・・・」。これからそんなニュースを見聞きしたときには、その背景にある「産学連携」や「産学官連携」についても、ぜひ考えてみてください。