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イノベーションはどうやれば起こせる? 【デザイン思考】で斬新な新製品、新サービスの創出へ。

世の中ではイノベーション(技術的革新)が求められているのに、従来のモノ中心、テクノロジー中心のものづくりでは難しいということから、注目されるようになった考え方があります。それが、デザイナーの思考プロセスをビジネスに生かすことで、イノベーション創出につなげようとする「デザイン思考」です。今回は、イノベーションを創出するための、デザイン思考について解説します。

イノベーション創出のための「デザイン思考」とは?

みなさんのなかには、大学に進んだ後に会社に入る人もいるでしょう。会社員になれば、上司から

「誰もが驚くような、斬新なアイデアを持ってきて」
「イノベーションを起こすような商品企画を考えて」

といったむちゃな命令を受けることもあるはずです。

とはいえ、普通の人が思いつくようなのは、ありふれたアイデアばかり。斬新で奇抜なアイデアを次々と発想できるような人は、ごくごく限られています。では、どうすれば、イノベーションを起こすような斬新なアイデアを生み出せるようになるのでしょうか。

そのためのアプローチのひとつが「デザイン思考(デザインシンキング)」というものです。これは、デザイナーの思考方法を活用して、社会が驚くような新しい技術やサービス、取り組みであるイノベーションにつなげようという手法です。

<【14分で解説】スタンフォード式デザイン思考>

従来の発想法の限界とは?

日本人は改善を繰り返しながら、製品をよりよくしていく手法が得意であるとよくいわれています。例えば、過去の製品の課題を見つけ、それを解消するように改善を加えていきながら、品質を上げていくという手法です。

新製品を作ろうというときも、この手法に従って、過去の製品をもとに問題点を見つけ出し、その改良を目指して新しい製品の開発、設計を進めていくことも珍しくはありません。

しかし、この手法には、ひとつの問題点があると考える人もいます。それは、過去の製品に改良を加えていくだけなので、既存の概念を打ち破るような斬新なアイデア、オリジナリティーにあふれる製品を生み出すことにはつながりにくいということです。

デザイナーの思考法にヒントを見つけた

そこで注目されたのが、デザイナーの発想法でした。

例えば、マイホームを建てたいというオーナーの意見、要望を聞いて、形にするのが建築デザイナー。彼らはオーナーから要望を聞いて、「こういう形の家にすれば、要望に応えられるに違いない」と家のデザインを考えます。

その手法を、デザイナーが絡まないような一般のビジネスにも応用してイノベーションにつなげようというのが、デザイン思考です。

従来の手法はモノ中心、デザイン思考はユーザーニーズ中心

過去の製品の問題点を見つけ出し、改良しながら新商品を作り出すというやりかたは、いわばモノ中心、テクノロジー中心の手法といえるでしょう。一方、デザイン思考は、それを使う人の要望、ニーズを出発点として発想していきます。つまり、ユーザーのニーズを重視した手法というわけです。

なお誤解を避けるために注意しておきますが、ニーズを反映させるためにはテクノロジーも欠かせない重要なものなので、デザイン思考がテクノロジーを否定するものではないことは留意してください。また従来のやりかたも決してユーザーのニーズを軽視していたわけではありません。

デザイン思考が革新的である要因は、ユーザーが持っているニーズをデザイナーの思考プロセスを用いてイノベーションにつなげようという点であると理解してください。

デザイン思考の進め方

では、デザイン思考とは具体的に、どういう流れでビジネスを進めていくのでしょうか。デザイン思考では、次のようなステップを回しながら、新しいイノベーションを生み出すとされています。

  1. 共感
  2. 問題定義
  3. アイデア創出
  4. プロトタイプ
  5. テスト

最初の「共感」では、その商品やサービスを使うであろう利用者の行動を観察したり話を聞いたりして、その人の願望や希望、ニーズ、抱えている課題などをユーザーの立場に立って考えます。

2番目の「問題定義」では、ユーザーの観察によって課題を見つけ出します。ここでは、ユーザーが自覚している問題だけではなく、意識されていない真の課題を探ることがポイントです。

3番目の「アイデア創出」では、それらの課題を踏まえた上で、新しいアイデアを生み出します。4番目の「プロトタイプ」とは試作品のこと。まずは形ある実物にしてみるのです。そして5番目の「テスト」で、実際に利用者に使ってもらったりしながら、感想、評価を聞いて、改良すべき点があれば修正を加えるなどして、精度を高めていきます。

デザイン思考から生まれたiPhoneは世界中で爆発的なヒットに

デザイン思考の象徴として挙げられているのが、アップルのiPhoneです。iPhoneが誕生したのは2007年のこと。高校生のみなさんには記憶にないことかもしれませんが、当時は「携帯電話と音楽プレーヤーを合体させてどうするんだ?」「物理的な数字ボタンがないと電話をかけにくい」などという批判の声もあったほどです。しかしiPhoneが登場するやいなや、使い始めた一般のユーザーが高評価したところから、爆発的にヒットするようになったのです。

では、iPhoneの何がすごかったのでしょうか。その理由のひとつとしてデザイン思考が挙げられています。

当然ですが、iPhone登場前にiPhoneのことは誰も知らないので、「iPhoneを使いたい」と思う人はいません。つまり、そのようなニーズはそもそもなかったわけです。

しかし、アップルがユーザーを観察して(共感)、心の奥に隠されていた潜在的ニーズを見つけ出し(問題定義)、「こういうのがあれば、世の中の人は喜んで使うはずだ」と考えた(アイデア創出)からこそ、iPhoneが生まれたわけです。まさにデザイン思考がイノベーションを引き起こしたといえるでしょう。

「デザイン思考」について学べる大学の学部、学科

大学でもデザイン思考を学生や社会人に習得してほしいという思いから、ものづくりにかかわる理工学部を中心に、さまざまな取り組みを始めています。

例えば、大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部では、「デザイン思考」を重点的に教育するものと位置付けています。下記サイトでは、取り組みの成果報告集も公開されているので、ぜひご覧ください。

・大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部 デザイン思考教育
https://www.oit.ac.jp/rd/outline/design.html

富山大学 都市デザイン学部では、デザイン思考を「理想を形にするクリエーティブな思考法」と考え、課題解決型学修(PBL)を通してデザイン思考を習得できる教育を行っています。

・富山大学都市デザイン学部
https://www.sus.u-toyama.ac.jp/about/design-thinking/

『デザイン思考』の活用が期待できる分野

製造業(ものづくり)、各種サービス、都市計画