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人の心と行動を考える学問【心理学】。現代心理学の基本とさまざまな種類

「○○を選んだあなたは××な人」といった気軽な「心理テスト」で遊んだことがある人は多いのでは? また、「犯罪心理学」や「社会心理学」といった「○○心理学」という言葉もよく聞かれます。このように心理学は、学問の中では比較的身近な存在です。といっても、「心理学とは?」と改めて聞かれるとよくわからないという人もいるはずです。そこで今回は、心理学の基本的な知識とさまざまな心理学の種類を説明します。

人の心と行動を科学的に研究するのが現代の心理学

心理学とは、一言でいうなら「人の心」と「行動」について考える学問です。

人の心というと、なんとなく哲学的だと感じる人もいるかもしれません。実際、かつての心理学は哲学の1分野として捉えられていました。しかし、近代以降の心理学は実は科学的な学問です。

心理学を科学的な学問へと進展させたのは、ドイツの哲学者で心理学者、生理学者でもあったヴィルヘルム・ヴント教授の功績です。1879年、ヴント教授はライプチヒ大学に世界初の心理学実験室を開設しました。これをきっかけに、心理学は科学的な学問として研究されるようになっていきました。ヴント教授はこの功績から、「実験心理学の父」と呼ばれています。

実験や調査を重視し、人の行動の普遍的な法則を体系化

ヴント教授から続く現代の心理学では、実験や観察、調査といった客観的な手法を重視します。そうした手法を用いて収集したデータを解析し、そこから人の行動の普遍的な法則を見いだし、体系化するのが今日の心理学の基本です。

人の心そのものを見ることはできませんが、行動の法則を明らかにすることで、人をより深く理解することが可能になります。別の言い方をすると、行動から心を読み解くことができるというわけです。また、他人だけではなく自分自身の心の動きを知り、制御することにも心理学は役立ちます。

心理学で使われる客観的な研究手法

ちなみに、心理学の研究に使われる客観的な手法としては、主に次のようなものがあります。

観察法 一定の決まりのもとで、人の行動や言語などを記録・収集する
質問紙法 あらかじめ作成した質問用紙を使って、多くの人の意見や考え方を収集する
テスト法 質問や課題を印刷した用紙を使って、多くの人の反応を調査。結果は得点化し、個人や集団の特性の差異を数量的に明らかにする
実験法 特定の条件を設定して、そこで発生する行動や事象を観察する。条件を変更することで、何が行動に影響を及ぼすのかを検証する
面接法 対象となる人物に直接さまざまな質問をして、詳しい回答を求める

<心理学は難だが役に立つ/東北大学 坂井信之先生【夢ナビTALK】>

さまざまな種類がある「○○心理学」

ひと口に「心理学」といっても、さまざまな種類があります。例えば、凶悪な事件が起きたときには「犯罪心理学」によって犯人の心理的な背景を探ろうとします。また、超高齢社会の日本では「発達心理学」の一つである「老年心理学」が注目されています。

ここでは、さまざまな心理学のうち、代表的なものをいくつか紹介します。その前に、まず押さえておきたいのは、心理学は大きく2つに分類できるということです。それが、「基礎心理学」と「応用心理学」です。

「基礎心理学」をベースに、実際の社会に生かす「応用心理学」

基礎心理学は、ここまで見てきた心理学そのものの定義とほぼ同一といってよいでしょう。人の心や行動の仕組みを科学的な方法で理解し、一般化しようとする学問が基礎心理学と定義できます。ただし、基礎心理学の研究領域は非常に広く、後ほど説明するように基礎心理学の中にも多くの「○○心理学」が存在します。例えば、前述の「発達心理学」は基礎心理学に属します。

一方の応用心理学は、基礎心理学の研究によって得られた知見を、現実の社会のさまざまな分野・場面に生かしていこうという実践的な研究です。社会問題や個人の心の問題解決などに役立てることが期待されています。応用心理学の場合も、基礎心理学と同様に多様な「○○心理学」があり、先ほど述べた「犯罪心理学」は応用心理学の1分野です。

なお、大阪大学大学院人間科学部のサイト(https://kiso.hus.osaka-u.ac.jp/aboutus/)にある「基礎心理学研究分野」の解説によると、(基礎心理学研究分野であっても)「応用研究を決して軽視してはいません。近年は、厳密な研究方法を活用した実用的研究や企業との共同研究も積極的に行なっています」とあります。大学によっては、「基礎心理学」の分野でも知見を生かした産学連携の研究、つまり応用かつ実践的な研究が進められているようです。

気になる「○○心理学」をまとめてチェック!

代表的な「○○心理学」をいくつか紹介します。名称だけを見てもわかりませんが、いずれも基礎心理学か応用心理学のどちらかに属しています。基礎心理学の場合は研究対象の違いによって、また応用心理学に属する場合は応用される分野によって、名前が付けられています。

基礎心理学に属する心理学の例

学習心理学 人や動物が新たな経験を習得していく過程で、行動がどのように変わっていくかを研究する
認知心理学 知覚や記憶、思考、言語などの認知の働きについて研究する
発達心理学 人の年齢による変化について一般的な傾向などを研究する
社会心理学 集団や組織の中における人の行動と心理の仕組みを研究する
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応用心理学に属する心理学の例

臨床心理学 人の個別性を重視し、心に関わる問題について実践的な解決策を検討する
犯罪心理学 犯罪行為の背景や犯罪者の行動などを、心理学的方法論を用いて明らかにする
災害心理学 さまざまな自然災害や人為的災害など、災害時やその前後における人の心理や必要な支援などを研究する
スポーツ心理 心や精神の状態がスポーツに及ぼす影響を研究し、スポーツの実践や指導に役立てる
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心理テストは「ポピュラー心理学」?

ところで、冒頭でも触れたいわゆる心理テストの類いは、心理学と言ってよいものでしょうか? 心理テストとは、例えば「3つのうち、あなたが一番好きなものはどれですか?」などの質問に答えると、「○○を選んだあなたは恋愛体質です」「××を選んだ人は自己中心的です」といった診断がなされるものです。

実は、心理テストはほとんどの場合、学術的な意味での心理学ではありません。なぜなら、心理テストはきちんとした統計データや検証に基づいておらず、診断の根拠がはっきりしていないためです。一部には、アンケート結果などデータに基づいた心理テストもありますが、心理学の場合は実験や調査にあたって方法などが厳密に定められているため、心理テストを同等に扱うことはできません。

心理テストやフローチャートに代表される、日常生活での人の行動や考えから性格、人格などを判断する「心理学的なもの」は、「ポピュラー心理学」や「通俗心理学」と呼ばれて、学術的な心理学とは分けるのが一般的です。自己啓発の書籍や人生相談なども、ポピュラー心理学の一種と捉えられることがあります。

心理テスト自体を否定するものではありませんが、学問としての心理学ではないことは頭に置いておきましょう。ただ、心理テストなどは会話の糸口になることもあります。心理学と切り離して、コミュニケーションツールの一つとして活用するのがおすすめです。

「心理学」を学べる大学・学部

心理学は日本中の多くの大学で学ぶことができます。文学部や社会学部、教育学部などの中に心理学科を設けている大学もあれば、独立して心理学部を設けている場合もあります。

大学によって、基礎心理学に強い、臨床心理学が専門など、得意とする分野が異なるため、必ず心理学のどの分野に強いのか、どんなことが学べるのかをしっかり確認しておくことが重要です。

例えば、駿河台大学の心理学部の場合は、学科ではなくコース制をとっていて、「臨床の心理コース」「犯罪の心理コース」「子どもの心理コース」の3つのコースを設けています。いずれもはっきりした専門性があり、臨床心理学、犯罪心理学、児童心理学を学びたい人にとっては有力な選択肢になると言えるでしょう。

・駿河台大学 心理学部
https://www.surugadai.ac.jp/gakubu_in/shinri/

また、これまでの心理学の常識にとらわれない新しい学科構成の大学もあります。立教大学の現代心理学部には、心理学科と映像身体学科の2学科があります。後者の学科は、心理学とは一見関係がないように思えますが、実は現代心理学の知見を活用して心・身体・映像を多面的に理解する新しい学問分野です。

・立教大学 現代心理学部 心理学科/映像身体学科
https://www.rikkyo.ac.jp/undergraduate/cp/

なお、公益社団法人日本心理学会の公式サイトには「心理学を学べる大学」のリンク一覧が掲載されています。気になる大学に心理学部や心理学科が設置されているかどうかをチェックしたいときには、利用するとよいでしょう。

・心理学を学べる大学/公益社団法人日本心理学会
https://psych.or.jp/interest/univ/