コンピューターの小型化が進み、パソコンやスマートフォンだけでなく、体に身につけて使う「ウェアラブルデバイス」が登場してきました。さらに小型化は進み、将来は体内に埋め込んで使う「インプランタブルデバイス」も普及することでしょう。これらの新しいデバイスはどのような使われ方をするのでしょうか。またそれにより私たちの暮らしはどう変わっていくのでしょうか。
ウェアラブル、インプランタブルな世界へ
今では持ち運んで使うのが当たり前となったコンピューターですが、世界初のコンピューターとされる1940年代に作られたENIACは、幅45メートルもあったといいます。
その後、小型化は進み、デスクトップPCという机の上に載せられるサイズになり、ノートパソコンというバッテリーを内蔵して携帯可能なサイズにまでコンパクト化しました。そして現在、多くの人が持っているスマートフォンも、コンピューターの一種。このように、コンピューターは小型化の一途をたどっています。
これからもコンピューターの小型化が進むことは間違いないでしょう。そしてコンピューターが小型化すると私たちの生活にも変化が生じるでしょうか。
そのヒントは、ウェアラブルデバイスに見ることができます。ウェアラブルデバイス(ウェアラブル端末)とは、体に身につける機器のこと。時計型のスマートウオッチ、メガネ型のスマートグラスなどが代表的です。スマートフォンやノートパソコンが「モバイルデバイス」と呼ばれるように「持ち運ぶ」ものであったのに対し、ウェアラブルは体に身に着けて使うことが特徴です。
しかし、そこで終わりではありません。その先には、インプランタブルデバイス(体内に埋め込む機器)を使う時代が到来するかもしれません。
身につけるウェアラブルデバイスはヘルスケア機能を強化
すでに普及しつつあるウェアラブルデバイス(ウェアラブル端末)の代表といえば、アップルのApple Watch、Googleが開発しているWear OSなどのスマートウオッチが挙げられます。ウオッチ(時計)と名前が付いていますが、時間を計るだけのものではなく、スマートフォンと連動させる形で使用するのが一般的です。
そしてメールやメッセージ、電話の着信を、スマートウオッチがバイブして教えてくれたり、お財布代わりに買い物の支払いができたりと、従来の「時計」とはまったく異なる、便利な機能を搭載しています。
スマートウオッチのヘルスケア機能
ウェアラブルデバイスで特に強化されているのが、ヘルスケア機能です。例えば、歩数をカウントする歩数計、活動量計や消費カロリー計、心拍数計測、睡眠時間計測などが挙げられます。
中には、血圧や血糖値、血中酸素飽和濃度などを計測する製品、装着者が転倒したことを検知して関係者に通知するような機能を備えたものまであります。
指輪型や衣服型のウェアラブルデバイスまで登場
スマートウォッチをさらに小型化したものが、指輪型のウェアラブルデバイスになります。指にはめたデバイスをスマートフォンと連係させて、メッセージの通知を受け取ったり通話をしたり、キャッシュレス決済などができるようになります。
またスマートウエアと呼ばれる、衣服タイプのデバイスもあります。服の中にセンサーなどが組み込まれたスマートウエアは、心拍数などのバイタルデータ、位置データ、湿度や温度などの環境データなどを収集します。
例えば危険を伴う場所で働く人がスマートウエアを着ていれば、体調や疲れ、ストレスなどを計測したり、突然の体調不良などが生じた場合にいち早く検知して対処することにも利用できるでしょう。また病気を抱えている人、あるいは妊婦のように体調の変化に注意しなくてはいけない人向けの衣服としても役立つはずです。
このようなヘルスケアに関する機能は、体に密着させて使用するウェアラブルデバイスならではといえます。
<最新ウェラブル端末を体験!:TOKYO MX>
メガネ型のスマートグラス
スマートグラスは、メガネ型のウェアラブルデバイスです。装着したまま、情報を表示させたり、通話したり、カメラ機能を使って録画したりすることができます。
スマートグラスはどのような用途に活用されるのでしょうか。例えば機械をメンテナンスするとき。機械はモデルごとにメンテナンスの方法が異なり、作業員はマニュアルを確認しながら作業を行いますが、マニュアルの映像をスマートグラスに表示させながら、メンテナンスを行うことができます。
またたくさんの人が訪れるイベント会場の警備などにも活用できます。警備員は、犯罪行為、迷惑行為をする人がいないかを周囲を常に監視していますが、その際にスマートグラスを利用すれば、カメラ機能を使って撮影した映像を人工知能(AI)でリアルタイムに分析することで、異常を見つけることができるようになります。
<未来型スマートグラス:バウンシー>
体の中に埋め込む「インプランタブルデバイス」
さらにデバイスを小型化し、体の中に埋め込んで利用するのがインプランタブルデバイスです。ウェアラブルデバイスがすでに普及し始めているのに対して、こちらはまだまだこれから研究、開発という段階といえるでしょう。
スマートコンタクトレンズで健康管理
インプランタブルデバイスのさきがけといえるのが、コンタクトレンズ型のデバイス。Googleが開発を進めていたスマートコンタクトレンズは涙に含まれる物質を分析することで、病気の兆候を早期に見つけるためのものでした。
日本のメニコンとも提携しているアメリカのMojo Visionが開発しているスマートコンタクトレンズは、視界の中に文字情報を表示させることが可能となります。さらに、視覚に障害を持つ人向けの機能も視野に入れて開発を進めているといいます。
鍵や乗車券はすでにインプランタブル化されている!
体内に機器を埋め込むというと未来の物語のように感じられますが、すでに日々の業務に利用している企業もあります。
例えば、スウェーデンの国有鉄道では、乗客の体内に埋め込まれたマイクロチップを乗車券がわりに使うシステムを2017年より導入しています。アメリカの自動販売機メーカー32Mは、従業員の体内に埋め込んだチップを使って、お金の支払いができるようにしています。また鍵の代わりに会社のドアの施錠や解錠に使ったり、社用車のキーとして使ったり、あるいは従業員の健康管理に活用するなどの取り組みも始まってます。
将来は脳に埋め込むようになる?
脳にチップを埋め込んで、脳波を用いて機械などを操作する技術BMI(ブレーンマシンインターフェース)の研究も進められています。BMIには、身体の機能の代替、脳や身体の機能回復、精神や神経に関する病気の治療などが期待されています。
日本の文部科学省においても、脳科学研究戦略推進プログラムの中で、BMIが研究されており、大阪大学、電気通信大学なども関わっています。
脳科学研究戦略推進プログラム
http://www.nips.ac.jp/srpbs/youkoso/index.html
大阪大学では、体が動かなくなる病気ALSなどの患者向けを想定して、BMIを使って脳からの信号をコンピューターで受け取り、ロボットアームを動かす実験に成功しています。
運動型ブレイン・マシン・インターフェース(BMI):大阪大学
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/storyz/special_issue/yomitoku/201209_special_issue2
ウェアラブルやインプランタブルなデバイスを研究する大学や学部
ウェアラブルデバイスは、一般のICT機器でもあるので、大学では理工系の学部で扱えます。ウェアラブルデバイスを研究したいなら、青山学院大学理工学部 情報テクノロジー学科 ウェアラブル環境情報システム研究室のように、ウェアラブルデバイスの名称を掲げる研究室を持つ大学を探してみるのが良いでしょう。
青山学院大学(理工学部情報テクノロジー学科 ウェアラブル環境情報システム研究室)
http://www.wil.it.aoyama.ac.jp/research.html
一方インプランタブルは、ICT、医学にまたがる分野であり、特にBMIとなると脳外科の分野になります。前述の脳科学研究戦略推進プログラムなどの取り組みを参考にして、大学を選んでみるのもひとつの手です。
現在は、人間がキーボードやマウス、タッチパネルを操作して使うICTデバイスが主流ですが、将来はウェアラブルやインプランタブルが浸透してくるでしょう。そうなった場合、コンピューターの使い方そのものが一変するかもしれません。特に体内に埋め込むデバイスは、医療や倫理にも関わるテーマとなります。技術だけを追い求めるのではなく、人間の暮らし、幸福とは何かを考えながら、研究、開発に取り組む必要があるといえるでしょう。
医療、ヘルスケア、予防医療、介護、衣服やファッション、警備、建設、建築、製造業、物流、など