「善と悪とは何だろうか」。改めて問われると答えのない難しい問題が世の中には山のように存在しています。あらためてこうした課題を見つめ、答えを探求するのが「哲学」です。
普段見逃している「物事の本質」を追求する「哲学」
「自分とは何か」「善とは何か」「なぜ人は美しさを感じるのか」「なぜ人を殺(あや)めてはいけないのか」。普段、何気なく過ごしていてもことも、いざ深く考えてみると、明確な答えがないことはたくさんあるものです。あらゆる根源的な問題について研究するのが哲学です。
<納富信留「プラトンの問いかけ」ー東京大学オープンキャンパス2017 模擬講義>
<八重樫徹「問いを生み出す哲学塾:東大TV」>
人類が2千年以上わたり向き合ってきた問題と向き合う
そもそも哲学とは何でしょうか。数学は文字通り「数」の学問ですが、「哲」という学問があるわけでもありません。哲学は、「philosophy」を翻訳したものであり、この言葉は「philo(愛する)」「sophia(知)」で、「知を愛する」を語源としています。
では、「知を愛する」学問とは、どのようなものでしょうか。化学や物理といった実践的な学問とは違い、哲学は、人がどのように物事を捉え、理解し、価値を見出すのか、「認知」や「倫理」など、概念を研究する学問なのです。
なんだか難しい話に感じるかもしれません。しかし哲学は、普段の人々の生活や人生とも密接に結びついています。例えば、「人の死とは何か」「人の尊厳とは何か」といった問題は自分とは関係ない話に思えるかもしれません。しかし、「脳死」や「臓器移植」「尊厳死」など家族はもちろん、自身も含めて誰もがいつか向かい合わなければならない問題なのです。
また社会では「死刑制度」の是非なども議論されています。高校生にとっては遠い世界の話のように感じるかもしれません。しかし、大人になれば裁判員制度があり、誰もが「自分が人を裁く」というシーンに出くわす可能性もあるのです。
正解のない、新しい問題と向き合うために
「戦争や紛争」「差別」「格差」「環境問題」など、世界で起きている問題をどのように考え、解決に導くか。これは今に始まった問題ではありませんが、持続可能な社会を目指す上でより切迫した課題となっています。
個々の人権を尊重し、公平で持続可能な社会「SDGs」の実現が叫ばれる一方、ロシアや中国など、指導者が強硬的な姿勢で政治を進める専制国家主義も台頭しています。
多様な価値観が混在する世界に明確な「正解」はありません。立場によって人の意見なども変わります。「民主主義」や「人権」「平等」をどのように考え、文化の違いなども吸収しつつ、より良い世界を作っていくか。哲学を学ぶ意味、重要性は増しています。
哲学で鍛える「考える力」は、社会に出てこそ役立つ
哲学は長年人類が答えを出せないあらうる問題を体系化し、答えを導こうという試みにほかなりません。先人の言葉を論理的に検証し、次の考え方を導こうというものであり、「考える力」を養います。
ビジネスの場面では、「クリティカルシンキング」など物事を論理的に捉え、解決していく能力が求められています。そしてビジネスを成功するためには、あらゆる可能性を模索、検討したり、価値観が異なる人を説得するなど、「考える力」は社会生活において役立ちます。
また科学技術の発展により、「遺伝子操作」や「人工知能(AI)」をはじめ、ビジネスにおいて倫理的な問題が問われるケースが増えてきました。
例えば、遺伝子操作でどこまで操作することが許されるのか、人ではない「AI」が引き起こした問題を誰が責任を取るのか、難しい問題です。さまざまな問題とぶつかる「Society 5.0」の社会において、多角的に議論し、コンセンサスを得ていく上で哲学はひとつの試金石を提供することとなるでしょう。
大学で哲学を学ぶということは、これまでの歴史を学ぶこと
哲学を専攻する哲学科は、大学の文学部で多く開講されています。それでは、大学で哲学を学び、研究するとはどういうことでしょうか。
哲学者が残した過去のテキストと向き合うのが基本
これまでに哲学者や思想家が研究を行ってきました。また人類や科学などの発展といった歴史とともにその考え方も変化しています。哲学科では、まず哲学の歴史や変遷など、これまでの思想を学ぶことが基本となっています。過去の文献を読み、理解していくことが中心となります。
人々は言語を通して物事を考えますので、概念を理解するには「言語」も重要です。例えば、日本語にある「粋(いき)」という言葉は外国語に相当する言葉がありません。逆に外国語に存在しているのに、日本語では表現できない言葉もあります。訳語があっても微妙にニュアンスが異なるなど、使う言語によって解釈が異なってしまいます。
文献を正しく解釈するためドイツ発祥の哲学を理解するには、ドイツ語で原典を読む必要がありますし、フランス哲学ではフランス語、インド哲学であればサンスクリット語などを勉強することとなります。
大学ごとに異なる特色
ひと口に哲学といっても、ギリシア哲学などの古代哲学をはじめ、ドイツ哲学やフランス哲学といった西洋哲学、中国思想やインド哲学、イスラム学などの東洋哲学、現代哲学など、地域や時代によってさまざまな思想があります。
「哲学史」の研究を中心とする場合もあれば、新たな哲学そのものを生み出す研究もあります。大学によって得意とする研究領域が異なり、所属する教授に依存するところも大きいです。教授の専門なども大学のウェブサイトで事前に確認しておくと良いでしょう。
また「認知」などをテーマとする哲学は、「美学」や「芸術学」とも深い関係があります。画家や演奏家とは違った側面から、芸術作品を研究するといった道もあります。美術館や博物館の学芸員資格を取得できる大学もあるので、興味があるのであれば、事前に資格課程があるか確認しておきましょう。
哲学を学ぶことができる大学の学部、学科
哲学科や哲学専修は多くの大学において主に文学部に設置されています。特に研究したい分野があるのであれば、どのようなシラバスが用意されているか、教授陣や設置されている研究室の専門などを参照することをおすすめします。いくつかの大学を紹介しましょう。
京都学派を生んだ京都大学 文学部
京都大学は、「京都学派」と呼ばれる哲学者を生み出したことでも知られる名門です。西洋哲学史専修、東洋哲学史専修、中国哲学史専修、日本哲学史専修のほか、歴史も踏まえて科学を見つめる「科学哲学科学史専修」や、新たな時代の哲学を追求し、哲学者を育てる「哲学専修」など多彩です。
文学部において2年生次に希望系統へ属し、3年生時の専修が決定するしくみですが、専修には定員があり、必ずしも希望する専修を学ぶできるとは限りません。
http://www.philosophy.bun.kyoto-u.ac.jp/message/
美学や美術史も学べる学習院大学 文学部哲学科
学習院大学の文学部において、もっとも古い歴史を持つ学部です。西洋から東洋まで幅広い哲学や思想史を扱うほか、美学や美術史なども学ぶことができます。
倫理や道徳などを専門とする実践哲学ではなく、これまで哲学者が残してきたテキストを読み込み、歴史を学ぶ側面が強いのが特徴となっています。
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/let/phil/gakka.html