社会のさまざまなシーンで活用が広がる人工知能(AI)。受験生の学習支援に活用するケースが増えてきました。今回は、AIが受験にどのように活用されているのか、また、人工知能(AI)を用いた学習にどのようなメリットがあるのか、注意すべきポイントも含めて解説します。
社会を変えるAIは、受験勉強も変える?
ここ数年、社会において人工知能(AI)を活用する場面が増えてきました。人工知能というと、あたかもコンピューターが自立した意志を持つかのように感じるかもしれませんが、実際は大量のデータを分析して最適解を導き出す「機械学習」というしくみが用いられています。
いずれにしても人工知能というと、遠い世界の話と思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、実は私たちの身近な生活にも浸透してきています。
例えば、ウェブサイトなどで案内してくれるチャットボット。チャットで投げかけられた質問に対して、機械がその場で最適な情報を探し出し、回答してくれるプログラムもAIです。
またスマートフォンやスマートスピーカーに搭載されている音声アシスタントにも、入力された音声の解析や、文章を正しく解釈するためにAIが活用されています。
翻訳や画像解析、株価の予測などのほか、さらに身近なところでは、エアコンの温度調整や電子レンジの調理支援といった家電に至るまで、さまざまな分野に応用が始まっているのです。
なぜAIの活用が進んだのか
AIの活用が進む背景には、コンピューターの能力が向上し、大量のデータを短時間で処理することが可能となったことが挙げられます。
処理能力が低い端末であっても、処理能力の高いクラウド上のコンピューターへインターネット経由で接続し、処理を行わせることで高度な処理を行うことが可能となりました。
またその場で処理を行わなくとも、あらかじめAIによって導き出された情報や処理方法を活用することで、気軽に恩恵を受けられるのです。
受験分野はAIと相性が良い
当然ながら学習分野にもAIの技術を活用する動きが生まれています。
例えば入試における出題傾向の解析。受験では大学ごとに出題の傾向が異なります。そのため、いわゆる「過去問」を勉強することが重要視されてきました。また過去問を踏まえた出題予想なども行われてきました。
その過去問は、いわば膨大なデータです。データを分析して最適解を見つけ出すのは、AIの得意技。過去問という膨大なデータをAIで分析し、より正確に出題傾向を予想しようという方向へ進むのは当然のことです。
わかりやすい例として「英単語」を考えてみましょう。入試の必須教科ともいえる英語ですが、受験では大量の英単語を覚えておく必要があります。
志望校でよく出される英単語はもちろん、読解問題でキーポイントになりやすい英単語や、文法問題や意味が問われることの多い英単語などを重点的に学べれば、効果的に得点アップを図れます。
AIが個々の能力に応じた「学習支援」で受験生をサポートする
「学習支援」の点でもAIが注目されており、大手予備校や塾がこぞって導入しています。
従来は、予備校など同じカリキュラムを多くの受験生がそれぞれ工夫して学ぶことがスタンダードでした。しかし得意分野、学習速度、定着率など、人によって異なります。
そこで、AIを使って学習の習熟度に応じて学習カリキュラムを受験生ごとに設計したり、問題を選定することで、無理のない学習をサポートします。また苦手な部分を繰り返し学習することで知識の定着を推し進め、すでに理解が進んでいる部分は復習をスキップするなど、学習の効率化を図ります。
もちろん、志望校の過去問から効果的な講義や演習問題を提供するといったサービスも登場しており、さまざまな角度から受験を支援しています。
大手予備校や塾以外でも、AIを使った学習は広がりつつあります。例えば、スマホを使った英語学習アプリ。英単語や発音、リスニングの練習などを、好きな時間に気軽に利用できるのがメリットです。有料アプリもありますが、無料アプリなどもあります。
予備校から無料アプリまで、身近となった「受験AI」
具体的なサービスを少し紹介しましょう。予備校の東進ハイスクールでは、AIを活用し、個別の志望校対策を支援しています。過去に蓄積した学習データや過去問、学習履歴を活用し、志望校の受験をサポートしています。
また河合塾グループの「河合塾One」は、入試に必要な基礎力を学ぶことができるサービスです。機械学習を活用したレコメンドエンジンが特徴で、学習すべきトピックだけでなく、何を学習すべきなのか教えてくれます。日本e-Learning大賞の「ICT CONNECT21会長賞」を受賞しました。
一方、家庭教師のトライでは「トライ式AI学習診断」としてAIを活用しています。各科目ごとに二択問題を提示し、回答内容から過去の学習データよりAIが得意分野と苦手分野を診断し、現状の学力を評価できます。日経xTECH EXPO AWARDにおいて教育AI賞に輝きました。
通信教育サービスでもAIを用いたオンラインサービスが増えています。リクルートのオンライン授業サービス「スタディサプリ」では、視聴履歴やテストの回答データを活用。AIで解析し、理解度の可視化や学習する順番の効率化など行っています。
ベネッセの進研ゼミは学習アプリ「AI StLike」を提供。習熟度にあわせて出題し、苦手な分野の解消を支援し、講師による映像授業も受講できます。日本e-Learning大賞で「経済産業大臣賞」を受賞しています。
有料サービスだけではありません。AIを活用し、語学学習を支援する「Duolingo」といった教育プラットフォームも出てきました。アプリなどは無料で利用できます。「Duolingo」は受験に特化したアプリではありませんが、海外の大学受験に活用できる「Duolingo English Test」を提供しています。「Duolingo English Test」は採点にAIを活用しており、国内の一部大学でも外部試験として取り入れています。
英語以外にも、数学の問題について解法がわからない場合に解説を探すことができる「Qanda」といったアプリもあります。いろいろ探してみてください。
AIを活用した「学習支援」サービス例
サービス名 | 提供 | 内容 |
---|---|---|
AI個別対応合格プログラム | 東進ハイスクール | AIを活用し過去に蓄積した学習データや過去問、学習履歴から個別の志望校対策を支援 |
河合塾One | 河合塾グループ | AIが個々の苦手を分析し、入試に必要な基礎力を学ぶことができるオンライン学習サービス。機械学習を活用したレコメンドエンジンが特徴 |
スタディサプリ | リクルート | 視聴履歴やテストの回答データをAIで解析、理解度の可視化や学習する順番を効率化 |
トライ式AI学習診断 | 家庭教師のトライ | 回答内容と過去の学習データよりAIが得意分野と苦手分野を診断 |
進研ゼミ「AI StLike」 | ベネッセ | AIが習熟度にあわせて出題し、苦手な分野の解消を支援 |
Duolingo English Test | Duolingo | 無料の語学学習アプリ「Duolingo」が提供する採点にAIを活用したオンライン英語テスト。ハーバードやMITなど、3000以上の大学で英語証明に使える |
AI学習支援における課題とは……
勉強の効率が上がることは、受験生にとって魅力的な話です。効果が試験結果などに反映されれば、モチベーションの向上にもつながります。
しかし、AIがいつも絶対正しいというわけではありません。あくまでも過去のデータをもとに予想しているに過ぎず、当然ながら外れることもあります。あくまでも「支援」のひとつとして捉え、自分でも考えながら学習を進めることが大切です。
また学習情報というのは、自分の得意分野、不得意分野はもちろんですが、思考のクセ、思想など、非常にデリケートな個人情報も含まれています。サービスの利用にあたっては、提供した個人情報が想定外の方法で利用されることがないよう、契約時に利用目的などをしっかり確認しておきましょう。
例えば、蓄積された情報が、就職時などの評価に利用されれば思わぬ結果を生む可能性もあります。思想などの判断が行われれば、内心の自由が侵害されることにもつながりかねません。
サービス利用者に18歳未満の未成年も多く、契約の主体が保護者である場合も少なくありませんが、保護者と一緒にしっかり契約内容を確認しておくと安心です。